お弁当を残した私に父は…わたしの元気ごはん
特定NPO法人国連WFP協会(安藤宏基会長)は東京都内でWFPエッセイコンテストの表彰式を10月16日に行った。今回は「みつけた!わたしの元気ごはん」をテーマに「食」にまつわる体験や自身の思いを文章にしてもらった。全国から過去最多となる2万2905通の作品が寄せられ、厳正な審査の結果、WFP賞(最優秀賞)は相蘇仁那(あいそ・にな)さんの「おひさまミートソース」に決定。各部門賞などの入賞作品も決定した。
コンテストでは、応募1作品につき給食3日分(90円)が寄付協力企業(昭和産業、日清食品ホールディングス、三菱商事)から寄付される。寄付金額は206万1450円となり、およそ6万8700人の子どもたちに栄養価の高い給食を届けることができた。
(原文)
「ひどいことを言ってしまった」わかっているけれど、「ごめんなさい」の言葉は心のとげとげにつっかかって出てこない。
母が入院した一週間と少しの間、父と二人だけで生活した。食事とお弁当は父が作ってくれたけれど、からあげは固いし、卵焼きは甘すぎる。食べる度に母がいないと実感してイライラするのだ。晩ご飯は必ずからあげと卵焼きで、その残りが私のお弁当になる。
ある日、私がお弁当をほとんど残して帰ると、父は具合が悪いのかと聞いてきた。私は食欲がなかったと答えて、晩ご飯も残した。それでも父はしつこくて、少しでもいいから食べなさいとうるさかった。
「うるさいな!だってまずいんだもん。それにいつもいつも同じだし!」
一気に言ってしまってから後悔した。怒られるとかくごしたけれど、父は「ごめんな」と言ったきり何も言わなかった。
次の日学校にいる間ずっと、夕べのことを後悔しながら過ごした。帰宅して重たい気持ちで玄関のドアを開けると、ふわっと良いにおいがして、笑顔の父が立っていた。
「今日はミートソースだぞ」
机の上には、丸くて真っ赤でお日さまみたいなミートソースが二つ並んでいた。一口食べたら、甘ずっぱくておいしかった。おいしいのに涙があふれて止まらなかった。
一緒に泣き出しそうな顔をしている父に、「おいしいよ」と泣き笑いで言うと「よかったー!お母さんに電話して教えてもらって、朝からがんばったんだぞ」と得意気に言った。
私は泣きながら全部食べて、言えなかった「ごめんなさい」も言えた。
あれからずっと、父の得意料理も私の元気ごはんも、あのおひさまみたいなミートソース。それを食べる度に私は、甘ずっぱくて温かい気持ちになるのだ。
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湯川れい子選考委員長講評 新型コロナウイルスの影響で仕事や住まいを失い、厳しい状況に追い詰められた人々がいます。そうした現実の中で多くの方々がコンテストに応募していただいたことを感謝します。相蘇さんの作品は「ひどいことを言ってしまった」という出だしから心をつかまれました。最後に泣きながら「おいしいよ」と太陽のように真っ赤なミートソースを食べるシーンではポロリと泣いてしまいました。文章力もお見事でした。
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〈各部門の入賞作品〉(敬称略)
▽小学生部門賞=「父のごはん」片岡泉(神奈川県カリタス小学校)▽中学生・高校生部門賞=「こころのお弁当」菊原綾音(富山県富山国際大学付属高等学校)▽18歳以上部門賞=「やっぱり、これだな!」吹田健一郎(埼玉県)
▽審査員特別賞(小学生部門)=小原伊都子「食べるとは生きること 生きるとは食べること」(神奈川県カリタス小学校)▽中学生・高校生部門=「母の元気弁当」水谷友亮(三重県四日市メリノール学院中学校・高等学校)▽18歳以上部門=中澤桜子「私は二度、震えた」(大阪府)
▽WFP学校給食賞(最も応募数が多かった学校・団体)=兵庫県須磨学園高等学校・中学校
◇日本食糧新聞の2020年10月23日号の記事を転載しました。
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