電子レンジで簡単、おいしくヘルシーなカレー! 料理研究家・千葉真知子さん
ニューヨークと東京を拠点に、世界で活躍する料理研究家の千葉真知子さん。電子レンジを使った簡単でおいしく、かつヘルシーなカレーを考案するために訪れたインドでの旅。ピアニストの娘さんとヨーロッパ各地で文献を探し、偉大な作曲家たちが何を食べていたかを解き明かした著書『食べるクラシック』のお話など、たっぷりと語っていただきました。
アメリカで電子レンジに出合ったのが料理研究家としての転機に
私は料理研究家になって間もなくアメリカで暮らすようになりました。当時のアメリカは、日本ではそれほど普及していなかった電子レンジの全盛期。便利だけれど加熱ムラができやすいといった欠点があり、「もっと簡単においしい料理ができないか」と研究を重ねたことが、現在までの仕事につながっています。
電子レンジ専用の調理器具を開発し、それを使ったレシピ本を発表すると、おかげさまで大好評。すると、「次はカレーのレシピがほしい」というリクエストが寄せられるように。
それならば、本場のインドでカレーを研究してみたい。そう考えてインド各地を巡りながら、レストランやホテル、一般家庭でさまざまなカレーを教えてもらいました。
最も印象に残ったのは、お釈迦さまが悟りを開いたという聖地ブッダガヤで食べたカレーです。お坊さんたちが泊まるホテルだったためか、野菜を中心としたシンプルなカレー。油もあまり使わず、あっさりとした味で、身体にもやさしいと感じました。
日本とニューヨークで研究を重ね100種類以上のカレーレシピを開発
インドの旅を終え、東京に戻って最初に始めたのは、市販されているルーやレトルトを食べ比べて日本人が好むカレーの味を研究すること。ニューヨークでは、自宅近くのインド人街で新鮮なスパイスを求めては、試作を繰り返しました。同居していた娘(ピアニストの千葉暁子さん)には、「朝5時からカレーをつくらないで!」とあきれられたりしながら(笑)、試行錯誤を続けたのです。
3年以上かけて生まれた100種類以上のカレーのレシピは、どれも油をほとんど使わず、しかも10分以内でできるものばかり。味の点でも、偶然知り合ったインドのスジャン・R・チノイ大使から、「こんなおいしいカレーを初めて食べました」とお墨付きをいただきました。
その時に大使から、「カレーに使うスパイス一つ一つは、薬でもあるのですよ」というお話を聞きました。たとえばターメリックは抗炎症作用で胃もたれに、フェンネルシードは食欲増進の効果が期待できるといわれます。
暑い季節になるとカレーが食べたくなるのは、私たちの身体がスパイスの効果を求めているのかもしれませんね。
クラシックの偉大な作曲家たちの「食のこだわり」を探る旅へ
身体にやさしいレシピということで思い出すのは、『食べるクラシック』という本で紹介した「ショパンのポトフ」です。この本は、ショパンをはじめクラシックの偉大な作曲家たちが、何を食べ、日々の食事にどんなこだわりを持っていたかを紹介した1冊です。
そもそものきっかけは、お菓子の撮影をしていた時に「モーツァルトも、ウィーンでザッハトルテ(名物のチョコレートケーキ)を食べたかしら」と娘と話したことでした。以前から私は、娘の演奏会で配るパンフレットを「みなさんが家まで持って帰ってくれるような、楽しい読み物にできないか」と考えていました。そこで、「音楽家と食にまつわるエピソードをレシピ付きで紹介したらどうかしら」とひらめいたのです。
美食家のロッシーニには料理にちなんだ名前のピアノ曲がある。シューベルトはカスタードクリームの入った焼きリンゴが好きだった。ベートーベンは豆を数えてコーヒーを入れた等々。パンフレットに書いたコラムはほんの短いものでしたが、それを目にした出版社から、「エピソードをふくらませて本にしませんか」とお誘いを受けて。そこで、娘と2人でヨーロッパ各地を巡り、当時の文献やレシピを調べることにしたのです。
中でも思い出深いのが、ショパンの滞在したマヨルカ島への旅。病弱で食の細かったショパンですが、マヨルカ島の新鮮な海の幸と野菜を煮込んだ「ポトフ」をことのほか喜んだというのです。私が再現したレシピでは、白身魚と根菜に加え、胃にやさしいとされるキャベツやセロリを使っています。これからの季節には、ズッキーニやなすなどの夏野菜を使うのもお薦めですよ。
料理研究家として私が大切にしているのは、「おいしく、ヘルシーで、簡単にできること」。そうした知恵を世界から集め、レシピとして発信していきたいと願っています。
NHK の番組の要望で考案した「フードピラミッド」
野菜がすべて入ったもの。アメリカ国立がん研究所はがん予防に効果的だとされる食品を「デザイナーフーズ」としてピラミッド型にして提案しており、その1 群の野菜(にんにく、キャベツ、大豆、カンゾウ、にんじん、しょうが、パースニップ、セロリ)をすべて入れ込んだパワフルな一皿。
◆プロフィール
ちば・まちこ 料理研究家。10年かけて開発した電子レンジ調理鍋「クック膳」(経済産業省大賞受賞)を世界的な商品に育てる。近年は和菓子を世界に広めるため、取り扱いの簡単なプラスチック製の和菓子用の型を考案し、普及活動に取り組む。『レンジでつたえる和菓子レシピ』(日経BPコンサルティング)、『食べるクラシック』(幻冬舎・電子出版)など著書多数。
◆千葉真知子さんのコラムもあわせてご覧ください!
インド人も絶賛のヨガ料理! 脂をほぼ使わないクック膳カレー【日本語と英語のレシピ付き】
◇百菜元気新聞の2017年6月1日号の記事を転載しました。
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