地方の取材が面白い。特に、現地の自治体職員や地域おこしの担当者から何気なく紹介された食材や料理、食べ方が、東京に住むわたしにとっては、まさに「目がテン!」になる驚きの事実。なぜ知らなかったのか!? 失われた時間がまことにモッタイナイ。
水がきれいで高原特有の気候に恵まれた鳥取県日南町の取材で、国道沿いのホームランド多里で食べた「だんご汁」が、まさに驚きの食感でした。

水車と石うすで、きめ細やかな粉に

自家製味噌を使用した「味噌汁だんご」。ピンポン球サイズの団子が3個、小口切りのネギの白と緑が浮かんでいるだけの見た目は地味な雑煮です。

だんごは箸でつまむと丸のカタチが楕円(だえん)になり、その軟らかさが一目でわかります。口に運ぶとその食感のあまりの軽さに驚かされます。舌の上をまるで絹のように滑り、とろけるように消えてゆくのです。

だんごの原料は地元産のもち米品種「ヒメノモチ」。それをホームランド多里では、水車と石うすできめ細やかな粉にし、練って「だんご汁」を作ります。

水車による製粉の良さは、摩擦熱を最小限に抑えられること。石臼でつくことで機械打ちとは粒子が違い、独特の軟らかさと食感が「だんご汁」を特別なものにしています。

ホームランド多里名物の「だんご汁」

 

水車は店のシンボル

 

製粉所では何度も網で漉して細かな粒子に揃える

オオサンショウウオが棲む清流に育まれたもち米「ヒメノモチ」

「ヒメノモチ」は1962年に東北農業試験場で開発したもち米品種です。コガネモチと大系227号という品種を掛け合わせたもので登録番号は水稲農林糯221号。いもち病に強いため、全国的に作付面積の多い人気品種です。

では、これまでなぜおいしいだんご汁に出会えなかったのでしょうか?現地で日南町産のヒメノモチは日本一という声を何度も聞きました。そこには“地元愛”“郷土愛”だけでは片付けられないおいしさを生み出す理由がありました。

日南町を潤す日野川源流域には特別天然記念物「オオサンショウウオ」の生育地があり、きれいな水で磨かれた日南町の米の味は特別、といいます。

全国に数ある中山間地の中でも「Top of the 中山間地」とでも言える日南町では長く耕作地の確保に苦労があり、山林や河畔を耕し、地域に合う作物を探してきました。そうした先人の想いの結晶ともいえるのが地域特産のもち米「ヒメノモチ」なのです。

丁寧に想いを込めて作られた「だんごの粉」

県外ドライバーの胃袋をギュッとつかんだホームランド多里の人気メニュー

「ホームランド多里」は国道183号線沿いに、カラカラ音を立てて回る水車が目印。地域の情報発信施設としてレストラン部と地場産農産物売り場を備え、地域のお年寄りの憩いの場ともなっています。

わたしが訪ねた12月初旬には、地場産リンゴ、椎茸、自然薯とムカゴ、こんにゃく芋、手作りの干し柿などが並んでいました。店では旬の野菜を使った40種類以上のメニューを提供しています。

出雲の歴史文化が色濃く残るこの地域では皮ごと石臼で挽いた黒く香りの強い出雲そばが人気ですが、水車づきのだんご汁の味は格別で、これを食べるためにこの街道を通る県外ドライバーも多いと聞きます。

お土産用にヒメノモチ粉「だんごの粉」を500g袋、660円で販売しており、自宅でこの希少な味わいが楽しめます。

ホームランド多里 鳥取県日野郡日南町多里783-10

ホームランド(訪夢蘭処)多里と福原伴美専務理事