静岡県は、荒茶生産量が全国の38%(2016年)、仕上茶出荷額が全国の55%(14年)を誇る日本における茶の生産と流通の拠点だ。そのはじまりは、聖一国師が中国・宋から持ち帰った茶の種を、静岡市足久保に播いたと伝えられる鎌倉時代にまでさかのぼる。
そのため、同県は、茶に関する歴史的、文化的施設や試験研究機関などが多く、「茶の都」としての資質を備えていることから、お茶の魅力を国内外に発信する拠点として、「島田市お茶の郷博物館」改め「ふじのくに茶の都ミュージアム」をリニューアルした。

お茶の文化や歴史を学べる

「ふじのくに茶の都ミュージアム」は(1)専門性の高い本格的なお茶の博物館(2)お茶の産業、文化、学術、観光の発信するためのお茶の拠点(3)子どもへのお茶の教育と若者がお茶に関心を持つための施設を目指した内容となっている。

県産材のヒノキを使用した「ふじのくに茶の都ミュージアム」外塀

入口を入ると、島田市の志戸呂焼の茶器を好んだ大名茶人・小堀遠州(遠州)が手掛けた書院や庭園を復元した茶室を含む日本庭園と現代風の中庭が広がる。

遠州は、江戸時代初期に茶の湯、作庭、建築など多方面で活躍し、徳川幕府の役職上でも二条城や御所などの重要な建築と庭園を担当した大名で、「綺麗さび」といわれる独自の茶を確立した人物としても知られる。

茶室 臨水亭

茶室「縦目楼」は、現在残る絵図面などをもとに、京都の石清水八幡宮の滝本坊と伏見奉行屋敷の一部を復元したもので、茶室「向峯居」、鎖の間「臨水亭」、書院「対雲閣」、数奇屋「友賢庵」から成る。

日本庭園は、1634年に遠州が手掛けた後水之尾院の仙洞御所の東庭を復元したもので、築地塀を隔て架けられた「伊勢物語」がモチーフの八橋も見どころの一つ。

茶室では熊倉功夫館長の音声ガイドで茶道文化や遠州の世界観を学べるほか、各流派のお点前を体験し、抹茶を味わうことができる。

博物館は、「世界のお茶と民族文化」「日本のお茶と静岡県の茶産業」、情報ライブラリーと多目的ホールなどにて構成される。

世界のお茶(博物館3階)

入口となる3階では、お茶の起源とされる中国雲南省の大茶樹の見学から始まり、各国の喫茶の復元施設、お茶の生産状況と喫茶文化を展示と映像で紹介するほか、ロビーでは富士山や大井川が一望できる。

2階では、「日本のお茶のはじまり」と「茶の都しずおか」コーナーで国内や静岡における茶業発展の歴史を品種や栽培技術とともに紹介するほか、「世界が認めた茶草場農法」コーナーで茶草場に生息する多様な動植物の標本や写真と茶園に入れる茶草を束ねた「かっぽし」の実物展示などを行う。

「お茶と健康」コーナーでは、自身の体の気になる項目を選択すると関係するお茶の効能を解説後、おすすめのお茶とそのいれ方をアドバイスしてくれるデジタルサイネージを設置している。

デジタルサイネージ(博物館2階)

1階では、お茶に関する一般図書などの資料の閲覧サービスを行うほか、専門家を招いた講演会などを不定期で実施している。

ショップや体験イベントも

商業館は、カフェレストランとミュージアムショップから成る、おしゃれで品格のある空間。カフェレストランは、団体客に加え、個人客や家族客にも利用しやすいよう82席と40席に区分し、全体的にゆとりある空間とした。

ミュージアムショップ

椅子や壁などのデザインには、「綺麗さび」の要素を取り入れ、「吹き寄せ」と調和した「間道」模様を採用。ミュージアムショップは、抹茶スイーツで人気の「ななや」(運営=丸七製茶)が出店するなど、県内企業を中心とした茶および関連商品が多く並ぶ、県材産のヒノキを利用した落ち着いた品格のある雰囲気となっている。

そのほかにも、同ミュージアムでは、「お茶とハーブのブレンド体験」や「茶手揉み体験」など、趣向を凝らしたさまざまな体験イベントが実施され、老若男女問わず、お茶の知識を知って、感じて、楽しめる工夫が随所に施された施設内容となっている。

《施設概要》
▽所在地=静岡県島田市金谷富士見町3053-2▽電話=0547・46・5588▽開館時間=午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで。茶室は午前9時30分~午後4時)▽休館日=毎週火曜日▽観覧料=一般300円(団体200円)▽大学生・高校生・中学生以下・70歳以上無料
公式サイト

◇日本食糧新聞2018年6月22日号を転載しました。