「三軒茶屋星座館」シリーズがついに完結! 東京・三軒茶屋にあるプラネタリウム兼バーを舞台にした、ディープでコミカル&ユーモアあふれる物語には、読者の予想を裏切る衝撃のラストシーンが…。「初のシリーズ小説でしたが、最高の物語が書けました」と話す柴崎竜人さんに、物語の魅力や、執筆後に楽しむ野菜料理などについてお聞きしました。

“超”人間くさいギリシャの神々 コミカルでヤンキー風な神話の「超訳」

自分の星座の物語をご存知ですか? 星座の多くはギリシャ神話と深い関係があります。僕は、高校時代に初めてギリシャ神話に触れたのですが、神様たちの、人間よりも人間くさいキャラクターに一気に引き込まれて。この世界をもっと分かりやすく、みなさんに伝えたいと思いました。

「三軒茶屋星座館」シリーズは、東京・三軒茶屋の路地裏にひっそりとたたずむプラネタリウム兼バーを舞台にした物語。主人公の店主は33歳の独身男、大坪和真です。ストーリーは、和真が星座館に集まる風変わりな客たちに語るギリシャ神話とともに進みます。文学作品として知られるギリシャ神話ですが、和真が話すのは「コミカルでヤンキー風のギリシャ神話」(笑)。大神ゼウスやヘラクレスら神々たちの姿を、とんでもなく破天荒に描いています。言ってみれば神話の翻訳ではなく「超訳」ですね。

『三軒茶屋星座館秋のアンドロメダ』で完結となった全4巻にわたるシリーズ小説ですが、星座が各章のタイトルになった1話読み切りとなっています。自分の星座や好きな星座のページから読み始めていただくのもオススメです。

もう一つ、この小説の骨格となっているのは、全巻を通して変化を見せる“家族のきずな”です。和真とその弟・創馬、そして10歳の少女・月子。血のつながらない娘1人と、父親2人の奇妙な親子関係を通して、現代に失われてしまった家族の新しいあり方を描きたいと思いました。星座も、もとは空にバラバラにあった星々を先人たちが結んで絵にしたもので、そこから物語が生まれました。

僕は、家族のきずなも同じように感じているんです。血のつながりに関係なく、独りの人間がいかにして人とつながり、そしてひとつの家族がつくられていくのか。そこにはどんな物語が生まれるのか。それがこのシリーズの大きなテーマとなりました。

光と影のコントラストの強い街 アジア的で猥雑な雰囲気も魅力の一つ

僕は20年以上、三軒茶屋に住んでいるので、いつかこの地を舞台にした小説を書きたいと思っていました。特に、新旧が入り混じった「三角州」は本当に面白いエリア。

大通りは、最先端とまではいかないけれど、チェーン店や銀行、綺麗なレストランなどが立ち並んでいて、ないものを探すのが難しいくらい便利な街なのに、路地を一歩入ると急に昭和の世界に迷い込む。東南アジアの街のような匂いもあります。光と影のコントラストが強い街なんですよね。人が入り乱れる感じとか、ちょっと猥雑な雰囲気とかがたまらなくて、僕自身なかなか抜け出せないんです。

物語の中には、実在する場所やお店がたくさん登場しますが、星座館が入っている雑居ビルも、三角州の路地奥にあります。三軒茶屋だけでなく、こんな場所って、みなさんが住む街にありませんか? そういう接点を見つけながら読んでいただけるとうれしいですね。

フルーツマティーニを知っていますか? 星空を眺めながら楽しんでみて!

執筆が終わると、近所のお店にごはんを食べに出かけることも多いです。最近のお気に入りメニューは、「赤鬼」のれんこん焼き。新鮮なれんこんにしょうゆの焦げ目のついたシンプルなメニューですが、僕にとっては、こういうのが一番の野菜料理ですね。このお店は、銘酒居酒屋というだけに珍しい銘柄の日本酒が豊富なので、酒の肴としても最高です。春野菜で楽しみなのは、何といってもたけのこ。これも日本酒によく合います。

季節を感じるものと言えば、フルーツマティーニ。僕、小説家になる前、バーテンダーをやっていたこともあるんです。旬のフルーツを使ったジンベースのカクテルで、一般的なシェイカーより大きいサイズの「ボストンシェイカー」を使ってつくります。空気をたくさん含ませながらシェイクするので、果物の香りがふわりと立って、とてもフレッシュな味わいなんですよ。ストロベリーマティーニやシトラス系のマティーニが出てくると「春が来たな~♪」と感じます。

初春の夜空にも、綺麗でたくさんの星々を見ることができます。みなさんも、たまにはゆっくりと空を見上げてみませんか?

◆プロフィール
しばざき・りゅうと 1976年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京三菱銀行退行後、バーテンダー、香水プランナーなどを経て、小説『シャンペイン・キャデラック』で三田文學新人賞を受賞し作家デビュー。映画『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』、ドラマ『レンアイカンソク』など脚本も多数手がける。近著に「三軒茶屋星座館」シリーズ、『あなたの明かりが消えること』『オワ婚』など。

公式HP http://www.shibazakiryuto.com/
『三軒茶屋星座館』特設サイト http://seizakan.com/

◇百菜元気新聞の2017年3月1日号の記事を転載しました。