塩辛というと誰しも思い浮かぶのは、イカやタコをワタで漬け込んだあの発酵食品だろう。しかし、この店で出される塩辛を見ると、その概念が大きく変わるはずだ。東名富士川SAの道の駅「富士川楽座」に本店を構え、静岡県の地場産品を販売していた「駿河屋賀兵衛」が、看板商品の塩辛と酒とのペアリングを提案するべく東京・神田にオープンしたのが、世にも珍しい塩辛バル「駿河屋賀兵衛 万世橋店」なのだ。

漬ける食材は魚介類を中心に何でもアリ

「塩辛の概念をもっと自由なものに」として、駿河屋賀兵衛では「塩で漬けて一定期間寝かせ、うま味成分を出した発酵食品」をすべて塩辛と定義。「塩で漬けることでアミノ酸が分解され、いっそうおいしくなった食品を広く“塩辛”と考えているので、漬ける食材は魚介類を中心に何でもアリ」と、「駿河屋賀兵衛」の店主・渡邊悠氏は言う。

その言葉通り、同店の塩辛は桜エビ、シラス、マグロ、カニ、ウニ、貝など、大胆な発想でさまざまな魚介類が使われている。ガーリックやオイルを加えて漬ける洋風もあり、「駿河屋賀兵衛」で販売される塩辛は60種類。バラエティー豊かなこの塩辛各種を、塩辛バルの同店では常時40品ほど揃え、小鉢に盛って400~900円の価格帯で提供しているのだ。

さまざまな食材を使った同店の塩辛は60品にも及び、カラフル!

各種塩辛を2、3、5、8品と好きに選べるセットメニューが好評で、一番人気は700円以下の塩辛を3品選択できる「三点・金」(980円)。何種類もの塩辛を食べ比べるように楽しめ、塩辛だけで夜の時間帯は40~50品は売り上げる、とか。2~3人連れで塩辛を5~6品注文し、シェアするお客が多いという。

塩辛を使ったアレンジ料理も

塩辛以外の料理も充実しており、そのメニュー数は約40品。「お酒に合う“静岡の味”」をテーマに、刺し身、静岡おでん、そして塩辛料理を提供しているが、塩辛を使ったアレンジ料理が何といっても個性的だ。

塩辛を味付けに用いたソテーや、ポテトサラダに混ぜて味のアクセントにしたり、バゲットにのせて洋風の創作料理に仕上げるなど、塩辛をユニークにおいしく活用しており、塩辛の可能性に驚かされる。

写真左下はゆでた枝豆を塩辛で炒めた「塩辛えだまめ」(600円)、右上はカツオ酒盗入りバーニャカウダソースでソテーした「萬幻豚じゃがバタソテー」(1,200円)、右下は新鮮なサンマの肝を使った「秋刀魚の塩辛」(800円・各税込み)

「塩辛は抜群に優秀な調味料でもある。食材とあえたり、炒め料理やパスタのソースなど多彩に使え、料理に深みとコクが増しますよ。和風アンチョビのような感覚で使うと、個性的なメニューに仕上がります」と、渡邊氏は説く。

客からは、「“しょっぱい”“おっさんくさい”という塩辛のイメージが変わった」という声が上がるそうで、「そう言っていただけるのが最もうれしい」と、渡邊氏は笑みをこぼす。

カウンター席だけの小ぢんまりと落ち着いた店内
【店舗情報】
「駿河屋賀兵衛 万世橋店」
所在地=東京都千代田区神田須田町1-25-4 マーチエキュート神田万世橋1階
開業=2014年9月
坪数・席数=約10坪・13席
営業時間=11時~23時、日曜・祝日11時~21時。年末年始休
平均客単価=昼1000~1200円、夜3500~5000円
1日平均集客数=昼20~30人、夜20~30人

◇外食レストラン新聞の2018年5月7日号の記事を転載しました。