日本が誇るごちそうである「ウナギの蒲焼き」だが、調理手順や食べ方を見ると地域ごとに独自の文化を形成している点がユニークだ。そうした調理法の違いに着目し、すべての長所を融合させて新しい蒲焼きのスタイルを誕生させたのが千葉・市川の和食レストラン「山茶花亭」の名物料理「鰻せいろまぶし」だ。

柳川の“ウナギせいろ蒸し”をヒントに

「他店にない看板商品を開発したいと考えてひらめいたのが、かつて旅行先で食べた福岡・柳川の“ウナギせいろ蒸し”でした。関東ではなじみの薄い料理法ですが、誰もが認めるごちそう食材のウナギで新しい提案ができると思ったんです」と経営の功徳林代表取締役社長・鈴木雄一さんは語る。

鈴木社長の弟で料理長を務める洋平さんをはじめ調理スタッフ全員に現地の味を体験させ、せいろ蒸しの開発がスタート。延べ2年の月日と100回を超える試食を繰り返して誕生したのが同品である。

千葉県市川市のロードサイドに立地。1940年の創業以来、仕出し料理と団体の宴席利用を柱に営業してきたが、2017年3月に店舗の一部を山茶花亭の屋号でファミリー層をターゲットにした和食ファミリーレストランとして営業を開始した

ここでおさらいしておこう。関東風のウナギの蒲焼きは、白焼きした後に蒸して身を軟らかくしてからタレを付けて焼く。結果、身がほどけるようなフワッと軟らかな食感が特徴だが、蒸している時にウナギのうま味も落ちてしまう難点があった。

その点、せいろ蒸しは最初にタレを付けて香ばしく焼いた後に、ご飯の上にのせて蒸し上げることで、身が軟らかい上にご飯にウナギのうま味が染み込み、ウナギの味を存分に堪能できるところがポイントだ。

原料のウナギは愛知県産の1尾330g前後と大きめのものを厳選。肉厚でたっぷりと脂がのっているから、せいろ蒸しの利点を生かすのに最適だ。ただぜいたくな話だが、最初から最後まで濃厚な味が続くと、どうしても食べ疲れしやすい。

「ひつまぶし」の食べ方を取り入れる

それを解決したのが、愛知県名古屋市のウナギ料理「ひつまぶし」の食べ方だ。最初はそのまま、途中からお茶碗を使ってワサビなど薬味を混ぜて食べ、最後にお茶漬けにして締める。二つの地域特有の食べ方を融合したことで、最後までおいしく食べられる「せいろまぶし」が誕生したというわけだ。

最初はそのまま、次は茶碗で長ネギ、ワサビ、海苔といった薬味を合わせて、最後にだしをかけてお茶漬けにして、三つの味を楽しめる。お茶漬けのだしはまぐろ節から丁寧にとった一番だし

抜群の商品力を発揮して、ウナギのシーズンである8月には月間1200食を売る大ヒットを記録。客層も30代の子連れファミリーから年輩まで幅広い層の集客に成功している。

「最近は口コミを聞いた九州出身のお客さまが目的来店されるケースが増えています」と鈴木社長は顔をほころばせる。今後も同品の磨き上げを継続し、デリバリーにも着手するなど「せいろまぶし」の食文化定着に尽力する考えだ。

店舗情報
「山茶花亭」
所在地=千葉県市川市新井3-17-17
開業=2017年3月1日
坪数・席数=50坪・70席
営業時間=11時30分~15時30分。年末年始休
平均客単価=2400円
1日平均客数=50人

◇外食レストラン新聞の2018年3月5日号の記事を転載しました。