「気軽に飲める大人の空間」という新たなイメージに挑戦するファストフード(FF)店が増えている。FFというと夜の売上げが頭打ちになりがちだが、「カジュアルに飲める場」としても定着を図ることで夜の時間帯を活性化し、新たな客層の掘り起こしにつなげたい狙いだ。そこで今回は、モスバーガーとフレッシュネスバーガーというこだわり派に評価が高いこの2つのハンバーガーショップにおける取り組みを紹介する。

大人がライトに楽しめるレストラン【モスクラシック 千駄ヶ谷店】

「モスクラシック」は、「大人のためのモス」をコンセプトに15年11月、オープンした。ワンランク上のグルメバーガーとフレンチのシェフ監修のビストロ料理、そしてアルコールを楽しめるモスバーガーにとって新たな試みの旗艦店だ。メニューは「ワインが進む料理」に加え、当初は「ハンバーガーを邪魔しない料理」を追求していた。

提供される料理は、“モスらしさ”がうかがえる食材を使い、フレンチのシェフがアレンジしている

しかし、実際に店を訪れる客層を見るとハンバーガー目当てではない例も多かったことから、「もっと自由に楽しめる店にしよう、と方針を見直した。ハンバーガーを食べに来たお客さまでも『ワインとおつまみがおいしそうだね』と注文し、『すっかり満足して、ハンバーガーまでたどり着けなかった』なんて楽しみ方もまた良し、ではないか、と(笑)」と、モスフードサービスの川口直哉氏は語る。

「テリヤキチキン シャンピニオンクリーム」880円(税込み)、「丸ごとトマトのカプレーゼ」880円(税込み)、「魚介と里芋のアヒージョ」880円(税込み)〈写真左から〉

この方針の見直しから、ハンバーガーと同じ主食メニューの位置付けであるパスタなども新たに採用。モスの運営業態から「フランチャイズのオーナーが対応できる範囲のシンプルな調理オペレーション」という条件は必須ながらも、「ちょっぴり特別感のあるメニュー」をイメージした。

その一方で、「凝り過ぎない料理」というバランス感も重視した。川口氏によると、「うちは、三つ星を目指すような本格レストランではありません。モスらしさを大事にし、誰にとっても親しみやすい料理を目指しています」。

ミニサイズの「スモールバーガー」。写真は左からハンバーガー、チリチーズバーガー、テリヤキバーガー。全5種類のハンバーガーから2種類選び、ポテトも付く「モスクラシックスモールバーガープレート(980円)」が大人気

モスバーガーらしい親しみやすさと、ちょっぴり特別感のあるメニューは、「お酒と食事をライトに楽しみたいが、居酒屋やレストランは重い」「一息つきたいが、コーヒー、コーラではない気分」と考える層に響き、着実に固定ファンを増やし続けている。

【店舗情報】
「モスクラシック 千駄ヶ谷店」
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-8-11/営業時間10:00~23:00/不定休/席数:54席、テラス4席

本格メニューで大人のカフェへ【フレッシュネスバーガー 横浜西口店】

「これまでのフレッシュネスバーガーのイメージを超えて、ゆっくりお酒が飲めるカフェ業態として、同店をオープンしました」と、フレッシュネス代表取締役社長の船曵睦雄氏。「FF+酒」というと、ハンバーガーとビールの組み合わせ以外はなかなか思い浮かびづらいが、「そうした枠から脱却し、ハンバーガー以外の料理とお酒を気軽に楽しめる場所として定着させたい」と言う。

カフェ業態を意識しているが、一般のカフェ以上にお酒向きのメニューを充実させた。しかし、居酒屋ほどの多彩さを目指さないことで「気軽に利用する店」の魅力を打ち出している

“飲める場所”としての定着を図るが、一方で居酒屋とは差別化し、「居酒屋は言うなれば『本気で飲む場』ですが、そこまで重くなく、ライトな感覚で飲みに立ち寄れる場を目指しています」。

多くのお客がハンバーガーだけでなく、ビストロ風の料理とお酒目当てで来店する

メニューは、酒に合うつまみ料理を揃えているが、居酒屋ほど多くはない。「お酒を飲む楽しみは美食を味わうグルメツアーとは違う、と考えています。あれもこれもとメニューがあっても、迷ってしまうだけ。お酒に合うおいしい料理が数品あれば、お客さまは満足してくださる」と、船曵社長は語る。

そんなことから、メニューは少数精鋭で厳選。「『しょせんはFFの出すつまみだから』と、がっかりされないよう、オーブンも完備した」そうで、アツアツの鉄板焼きやサラダなど、手の込んだ料理を揃えることで、「飲み屋の心意気を見せた(笑)」(船曵社長)。

目指すところは「お酒とメニューが充実した、FFのちょっぴり上を行く気軽なカフェ」というわけだ。

【店舗情報】
「フレッシュネスバーガー 横浜西口店」
神奈川県横浜西区南幸1-2-7/営業時間:6:30~24:00/席数:144席/ちょい飲み平均客単価:1,200円

ワイン飲み放題、生ハム食べ放題の「FRESHNESS BAR(フレバル)」

フレッシュネスバーガーの一部店舗では「FRESHNESS BAR(フレバル)」と称し、17時から「ワイン飲み放題」「生ハム食べ放題」を実施している。

ワインは、フランス産「サン・ヴァンサン」(ブラン・ルージュ)の飲み放題

「通常店舗では、つまみメニューもBARに匹敵するアルコールも揃えることができません。よほど尖ったことをしないと、『お酒を飲みに行く店』の印象が付かない、と考えました」と、船曵社長は明かす。ワインは1時間980円で飲み放題、生ハムは1時間500円(各税抜き)で食べ放題というかなりの目玉企画だが、「ゆっくりとアルコールを楽しめる店」という姿勢をアピールする側面もあるようだ。

既存メニューをアレンジしたつまみも用意 ※17年10月時点の情報。同年12月にメニュー改定

フレッシュネスバーガーの明るくオープンな雰囲気から、飲み放題といえどカジュアルに利用する例が多いという。「お酒が飲める店」として利用されるFFはまだ少ないが、同店は思い切った企画を採用することで、「お酒を軽く楽しめる店」としての定着に成功しつつある。

◇外食レストラン新聞の2018年1月1日号の記事を転載しました。