熊本県熊本市在住のたべぷろ編集部員・涼野リノです。大分で生まれ育ち宮崎で学生時代を謳歌し、東京の荒波にもまれて帰ってきた九州は熊本の地で感じた、各地での「食文化のちがい」をご紹介してまいります!今回は「南関あげ」と呼ばれる熊本のちょっと特殊な油揚げについて。読んだ後はお取り寄せしたくなるかもしれませんよ。

油揚げの既成概念を覆す、圧倒的なビジュアル

お味噌汁やいなり寿司に欠かせない油揚げ。ふわっとした食感とジューシーな甘みのあるお揚げはおいしいけれど、「油抜き」のひと手間って面倒ねと思ったことはありませんか?

熊本のローカル食材「南関あげ」は汁物の料理に使う場合、油抜きが不要なんです!しかも常温で3ヵ月の保存が可能。筆者が熊本に移住して初めて南関あげの存在を知った時は「なんて便利なんだ!」と九州の中心で叫んだとか叫ばなかったとか。

そして衝撃を受けるのはまずそのビジュアル。油揚げの大きさといえば大抵、スマホよりひとまわり大きいくらいのサイズですが、南関あげは約20cm角の大きさのものが従来のサイズ!最近では半分のサイズで約10cm角(それでも十分大きいですよね)のものや、「きざみ」タイプのものも見かけます。

ビジュアルの存在感も抜群ですが、手に取ってさらに驚くのがその質感。カリッと揚げられた南関あげは、軽くて硬くて、まるでスナック菓子のようなもろさです。

道の駅で見かけた南関あげは標準サイズと「きざみ」タイプ。それにしても大きいですね。

熊本に古くから伝わる伝統食材

「南関あげ」という名前の由来は、熊本県南関町(なんかんまち)という地名です。大正時代にはすでにその原型があったそうなので、熊本の伝統食、名産品の大御所と言っても過言ではありません。

油揚げといえば通常は、しっとりと水分を多く含む傷みやすい食材ですが、南関あげは傷みやすい原因の水分を最小限まで取り去る製法で長期保存が可能になったそうです。

カリッとした南関あげは調理の際に水分を吸収しやすいので、お味噌汁や煮物の味がジュワッとしみ込みます。しかも薄く仕上げられた南関あげの食感は長期保存後も出来たてのようにふわっふわ。冷凍保存して味が損なわれてしまったお揚げとは大違いです。

【お味噌汁の例】左:筆者夫→鍋の上で豪快に大きく。右:筆者→鍋に入れる前に細かく。

油抜き不要♪南関あげは時短料理にもってこい!

余談ですが、筆者は油揚げが大好きです。例えばきつねうどんのおだしがしみ込んだお揚げを口に含んだ瞬間のジュワッと広がる甘みを思い出すだけで幸せな気持ちになります。お味噌汁はふわふわの食感を味わいたくてお麩より断然お揚げ派。

しかしいくらお揚げLOVERと言えども、ずぼら主婦の筆者にとっては油抜きのひと手間は本当に面倒くさいものです。南関あげに出会う前、全国共通タイプ(?)の油揚げを油抜きせずお味噌汁に入れた結果、テッカテカの油まみれなお味噌汁になった経験もあります。

・・・筆者のようなずぼら主婦でなくとも、忙しいママにとっては「手間が省けて、しかもおいしい」という食材は時短料理の強い味方。南関あげはお味噌汁やひじきの煮物など水分の多いメニューに使う場合、油抜き不要なので、袋から取り出したらカットしてお鍋にダイレクト・イン!できます。

包丁できれいな短冊切りにするだけでなく、田舎料理風にしたい場合は上記写真のようにバリバリと素手で大胆に砕いてもおいしいですよ。(失敗しても大丈夫なように、お鍋に入れる前に砕くことを推奨します・・・)

メーカーさんの推奨では、「汁気がないものと一緒に調理する場合」は油抜きした方が良いそうです。熱湯にさっとくぐらせる、油抜きの方法は特に変わりありません。

調理方法の例に「水炊き」があるのも、九州ならではですね。

サッと簡単。ずーっとおいしい。熊本のスタンダード食材

油揚げなのに油抜きが不要だとか、常温での長期保存が可能だとか、ひいては作りたてのおいしさがそのままだとか、書いていてマユツバとさえ思えるメリットがたくさんの南関あげ。

しいてデメリットをあげるとすれば、調理前はカリカリで崩れやすいので、お買い物をして持ち帰る時に下積み厳禁という点ぐらいでしょうか。

筆者としては全国の油揚げLOVERSにぜひとも知っていただきたい南関あげですが、地元熊本の人たちにとっては当たり前の食材すぎて、あまり日の目を見ていない感があります。

たかが油揚げ、されど油揚げ。時短料理のお供にもなる南関あげは、ネット販売や熊本のアンテナショップでも買えるようです。ぜひ一度、その手軽なおいしさを味わってみてください。