「おいしさとは身体にやさしく飽きない味」。静岡県浜松市を拠点に45店舗を展開する惣菜チェーン「知久屋」のポリシーである。1977年の開業以来、「無添加の素朴な味」を売り物に地元から厚い支持を獲得。近年は自社農場を立ち上げ有機・減農薬野菜の栽培に取り組むなど、一貫して「食と健康」の充実に注力している。「地元の台所」を目指し定番の研さんに努める知久屋の現場を追った。

マヨネーズから自社製

定番惣菜を主力にした「品数と品質の総合力」が売り物。品数は年間通じて約600品。旬に合わせて月に2回差し替えを行い、常時約200品の惣菜が売場に並ぶ(サイズ別、チルド包装品を含む)。突出した看板商品はないが、強いて挙げるなら開業当時から変わらぬ「ポテトサラダ」と「ポテトコロッケ」だという。

サラダの具材は、男爵芋、ニンジン、玉ネギ、キュウリ、調味は塩、コショウ、マヨネーズ。ごく普通の面持ちだが、マヨネーズは創業以来、卵黄、油、酢のみで自社製造しており、「酸味がありながら甘味が際立つ」という独特な味わいは、浜松のソウルテイストと評されている。

コロッケはの具材は、男爵芋、合いびき肉。調味は塩、コショウのみ。男爵芋の持ち味と香りが引き立ち、粗びき肉との相性が抜群に良い。

昔ながらの体に優しい無添加惣菜が大皿に盛られて並ぶ。まさに浜松市民の台所

すべて当日に調理

製造工場で前日晩に素材を仕込み、夜中から調理が始まり、朝一で各店に配送される。サラダなどの冷菜は製造工場で調理済み、揚げ物などの温菜は集客のタイミングに合わせて各店で最終調理される。無添加のため賞味期限は製造後24時間。

野菜の仕入れは各地の旬に合わせた契約栽培および産地直送が基本。有機無農薬栽培を理想に努力しているが、現状は減農薬で道半ば。そこで、浜松市内の三方原台地で「知久屋農園」を開業。男爵芋などの野菜を有機JAS栽培の手法で自社栽培する他、来店客を募って収穫体験ツアーなどを行っている。

店舗規模にもよるが、ロードサイド店の平均年商は約1億2000万円。集客数は月平均1万人。惣菜の売れ筋は全店ベースで、きんぴら(平均日販100kg)、ヒジキ煮物(同100kg)、うの花(同140kg)、ポテトサラダ(同220kg)、ポテトコロッケ(同3600個)。

夕方のピークに向けた午後4時半頃の店内陳列

浜松市を拠点に密集して45店舗という実績が示す通り、地元から厚い信頼を得ている。その信頼を築く過程の一つに「パート従業員の口コミ」がある。製造工場や店舗で働く多くのパート従業員が日々の調理現場で「無添加」を直視、「食の安全」を体感している。

そして自らも客となり購入している。身内が率先して常連客となり、口コミで内情が広がれば、品質訴求においてこれ以上の説得力はない。揺るぎない信頼は当然であろう。

桜台店は76席のイートインスペースを併設。ファミレスばりの快適空間を併設

◆会社概要
「知久屋」 経営=(株)知久
所在地=本社:静岡県浜松市西区桜台1-2-1

◇外食レストラン新聞の2017年8月7日号の記事を転載しました。