特定NPO法人国連WFP協会(安藤宏基会長)は、東京都中央区のコートヤードマリオット銀座東武ホテルでWFPチャリティーエッセイコンテストの表彰式を10月15日に行った。今回は「こころのワクチン、私のごはん」をテーマに「食」にまつわる体験や自身の思いを文章にしてもらった。

全国から過去最多となる2万3075通の作品が寄せられ、厳正な審査の結果、WFP賞(最優秀賞)は加藤博子(かとう・ひろこ)さんの「思い出のサンドイッチ」に決定。各部門賞などの入賞作品も決定した。コンテストでは、応募1作品につき給食3日分(90円)が寄付協力企業(昭和産業、日清食品ホールディングス、三菱商事)から寄付された。寄付金額は207万6750円となり、およそ6万9200人の子どもたちに栄養価の高い給食を届けることができた。

(原文) 大手コーヒースタンドのミラノサンド。それが私の心のワクチンだ。

「清、緩和ケア病棟に移ったって」。絞り出すような声で母が言った。鉛を飲み込んだような胸苦しさに、私は思わず目を閉じた。清おじさんは母の弟だ。胃がんを患い入院していた。緩和ケアとは、積極的ながん治療をせずに痛みや苦痛を和らげることを優先する所だ。つまり、そこに移ったということは。私も母も言葉を失った。

その日は、妻の佳代子さんが急用で、私が1日付き添いを代わることになった。「食べたいものをリクエストしてね!」。私のメールに「あのミラノサンド!」と即座に返信があった。駅前でテークアウトをし、病院までの上り坂を一気に走った。紙袋を掲げて「へい、お待ち」とおどける私に「おう、これこれ。食べたかったよ」。叔父さんは目を細めた。その笑顔に鼻の奥がツンとしてきたから、私はコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

叔父さんは私の初恋だ。10歳年上の叔父さんの背中を、ずっと追いかけて成長した。叔父さんが結婚した時、こっそり泣いた。叔父さんががんだと聞いて神に祈った。どうか助けて下さいと。柔らかい日差しが降り注ぐ病室で、私たちはミラノサンドを頬張った。叔父さんはゆっくりとかみしめるように半分ほど食べた。

「医者は何を食べてもいいって言うんだ。まあ、量は食えないけどね」「また買ってくるよ。そうだ、次回は全種類買ってシェアしよう」「おう、いいね」。そして、深く息を吸い込んでこう言った。「お前はちゃんと食べろよ。俺が言うのも何だが、人間は食べたもので出来てるからな。ちゃんと食べて長生きしろ」。私は無言でうなずいた。それが、叔父さんとの最後の食事になった。

元気が欲しい時、私は今もミラノサンドをテークアウトする。パンをひとかみガブリ、コーヒーとごくり。胸がじんわり熱くなる。「見える?私は今日もちゃんと食べてるよ」。天国の叔父さんに、そう呼びかける。

●湯川れい子審査委員長講評
「人間は食べたもので出来てるからな。ちゃんと食べて長生きしろ」。胃がんで亡くなった叔父さんが、最後の日々に喜んで食べたコーヒースタンドのミラノサンド。そのサンドイッチを駅前でテークアウトして、大好きな叔父さんの笑顔を見ながら食べた情景が、読みながら目に浮かびます。そして今、元気が欲しい時、ミラノサンドを食べながら胸を熱くして食べる作者の姿に、涙が止まらなくなりました。

〈各部門の入賞作品〉(敬称略)
▽小学生部門賞=「受け継ぐ母の味」吉田美緒(神奈川県カリタス小学校)
▽中学生・高校生部門賞=「魔法のオムライス」板野日音(三重県高田高等学校)
▽18歳以上部門賞=「小学一年生の新常識」岩村侑紗(千葉県)
▽審査員特別賞(小学生部門)=「パパとママの涙」宮崎響(奈良県生駒北小学校)
▽同(中学生・高校生部門)=「笑顔の向こう側に」松下チャミリ(静岡県浜松聖星高等学校)
▽同(18歳以上部門)=「給食がある風景」丹羽直子(東京都)
▽WFP学校給食賞(最も応募数が多かった学校・団体)=兵庫県須磨学園高等学校・中学校

◇日本食糧新聞の2021年10月25日号の記事を転載しました。