乳幼児もそのまますぐ食べられる災害食の備蓄を、熊本地震の教訓
自然災害が頻発する一方、進む高齢化や乳幼児を中心とした食物アレルギーの増加…熊本地震を契機に、こうした災害弱者の存在がクローズアップされた。そこで、甲南女子大学名誉教授で日本災害食学会顧問の奥田和子氏は、熊本地震による災害食の現状と問題点を分析する中で、この問題に着目。
福祉避難所を調査し、行政の受け入れ体制や住民への周知に問題点や課題が多いことを突き止めた。さらに、要配慮者に向けた食品備蓄として、水道やガス、ライフラインが復旧していなくても、そのまますぐ食べられる食品や、嚥下(えんげ)やアレルギーに配慮した食品の重要性を強調する。
日本災害食学会・奥田和子顧問に聞く
福祉避難所とは、災害発生時に、高齢者や障がいのある人、難病患者、妊産婦、乳幼児など、配慮を必要とする人たちを受け入れ、必要な福祉サービスを行う避難所を言い、熊本市内に176施設が認定されている。
要件として、スローブや手すりの設置、介護や生活支援ができる機能・空間スペースの備えなどが求められている。内訳は、特養や老健施設など高齢者向けが一番多く、障がい児(身体・知的)などの施設が続く。
熊本市の福祉避難所受け入れ想定数は1748人だったが、震災発生から1週間経過した4月22日時点で、利用者は33施設、70人にとどまった。益城町では想定数が120人に上るが、福祉避難所は開設されていない。南阿蘇村に至っては、受け入れ想定数すら不明で、益城町同様開設もなく、小規模行政では、ほとんど機能していないことが分かった。
うち熊本市内の施設で聞き取り調査を行った結果、食べ物の備蓄は3日分にとどまったが、1週間分が望ましく、職員の備蓄も必須だ。ライフラインが完全復旧するまで料理できない(ほぼ1ヵ月間断水)ため、食品はレトルトや缶詰などそのまま食べられるもので、嚥下やアレルギー対応など要配慮者に適合したものを選ぶ。支援物資にアルファー米が多いため、野菜ジュースで戻すなど、日ごろから食べ方のバリエーションを研究しておく必要がある。また、職員分も含め、使い捨ての箸や紙皿の備蓄も忘れてはならない。
大地震による冷蔵庫の転倒も想定され、保存していた食品がだめになるので、冷蔵庫をきちんと固定すべき。おむつ替えでおしりを拭くなど大量の生活水を必要とし、飲料水を使ってしまうケースもあり、全員が「水が足りなかった」と答え、多めに備蓄すべきことが分かった。また、支援物資に生鮮食料品がないため、日ごろから農園などと契約しておくことも大切だ。
要配慮者であっても、避難所に食べ物や飲み物を持参する自助も必須で、非常持出袋に、お腹の足しになるおかゆや軟らかいパン、野菜スープ、マッシュポテトなどのほか、心の潤いにつながるプリンや果物のジェルといったスイーツ類、飲み物として、野菜不足が補える野菜ジュースや、嚥下障害にも配慮し、とろみ調製緑茶や紅茶、コーヒーなどを、日ごろから用意しておく必要がある。
一方、全国102市区の福祉避難所周知状況調査(毎日新聞調べ)によると、ホームページや防災マップなどで「周知されている」が61%で最も多いが、「周知していない」も29%に上るなど、周知の徹底に課題がある。自宅が全壊した場合、指定避難所から紹介を受け福祉避難所で医療的ケアを受けるのが本来のルートだが、広報活動が行き届かない場合、車中泊やテント生活となりかねず、健康を害するリスクは高い。
現に、熊本地震の災害関連死は、直接死の3.5倍に上り、その年齢は、80代が62%で最も多く、70代35%、90代32%と高齢者に偏っている。まず必要なのは“住”で、住むところがなければ、“食”は満たされない。“衣”“食”“住”ではなく、“住”“食”“衣”ということを認識してほしい。
◇日本食糧新聞の2017年7月12日号の記事を転載しました。
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