新型コロナイルス感染症患者の中で、重症化して人工呼吸器が必要になる率が著しく高いのは肥満者ということが明らかになっています。最先端の科学的な裏付けに基づいた食事術を知る医学博士の満尾先生に、感染症に負けない食習慣を教えていただきました。ポイントは、「野菜を食べる」「ビタミンDを取る」「1日1パックの納豆を食べる」の3本柱だそうです。

本当に正しい栄養学の知識 野菜を食べて幸せになりましょう

私が健康のためによく食べる野菜は、緑色が濃い葉物野菜、特にブロッコリーやキャベツ、菜の花などのアブラナ科です。これらは、幸せホルモン「セロトニン」生成に必要なマグネシウムを多く含みます。身体の解毒力と抗酸化力を高めるスルフォラファンを含むブロッコリースプラウトも積極的に食べています。

海外に出て感じるのは、日本ほど食べ物に恵まれた国はないということです。きのこ、豆腐、納豆、海藻類など、おいしくて栄養豊富な食材がたくさんがあります。何より手軽に安く手に入るところがいいですね。

野菜ときのこ、海藻類は食物繊維を豊富に含み、腸内環境を整える食材です。免疫細胞の6~7割が腸にあるといわれ、40種類以上の神経伝達物質が腸内で合成されることから「腸は第2の脳」といわれています。

セロトニンも80~95%が腸内細菌によってつくられています。つまり、野菜を食べれば神経が安定し、メンタルも強くなります。腸内細菌が整えば、さまざまなビタミンがつくり出されることも分かっています。ビタミンもミネラルも、「家」に例えると一番大切な基盤。栄養状態の最適化を目指すのなら、すぐに始めていただきたいのがビタミン・ミネラルの積極的な摂取です。

下痢や便秘が慢性化している人は、メンタルに問題があらわれやすく、過敏性腸症候群の人の8割はうつの症状を有しているといわれます。

日本の栄養学は20年遅れている ビタミンDの摂取を心がけよう

日本の医学部教育のカリキュラムに「栄養学」の文字はありません。日本では、栄養学を学ぶことなく医師になって患者を診察することになります。私が米国ハーバード大学外科代謝栄養研究室で学んだのが、「栄養学は医学のすべての分野に共通する基盤である」。アメリカで最先端の抗加齢学を学び、日本初のアンチエイジング専門クリニックを開業しました。

まず老化の程度を客観的に知るため、さまざまな身体情報を調べることから始めました。血液検査をすれば、栄養の過不足は一目瞭然。日本の健康診断は病気探しですが、私の場合は病気になりにくい身体を目指すための状態検査です。

1品で野菜4色取れる!彩り豊かなボリュームメニュー(料理撮影/さくらいしょうこ)

過不足の栄養素の中で特に注目するのはビタミンDです。その働きは、免疫力の増強、脳や神経機能の維持、心臓血管疾患予防、糖尿病予防など、ほぼすべての生理学的な機能に影響を与えています。海外の文献でも、ウイルス対策としてビタミンDの摂取が推奨されています。

ビタミンDを補充する方法は3つ。鮭や青魚を食べる、サプリメントで取る、日に当たる。鮭や青魚は缶詰でも効果は同じです。できれば週の半分は魚を食べたいですね。

野菜と果物について患者さんにいつもお伝えするのは、「赤、黄、橙、緑、紫、黒、白の7色のレインボーフードを意識して、1日4色以上食べる」ということです。野菜がそれぞれ持つ独特の香りや苦味は「ファイトケミカル」という化学物質の特徴です。トマトの赤であるリコピンの抗酸化力は、β-カロテンの10倍、ビタミンEの100倍ともいわれています。

感染すると重症化しやすい肥満者 毎日1パックの納豆で感染予防を

手軽ですぐにできる食習慣は、1日1パックの納豆です。感染症を予防し、骨を丈夫にし、炎症予防とアンチエイジング、動脈硬化予防が期待できます。何しろ納豆菌は、微生物の中でも最強の増殖力。悪玉腸内細菌の繁殖を抑え、腸内細菌叢を良い状態に整えます。そのパワーは、O-157など病原性大腸菌の増殖を防ぐほど強力です。

私は会食があった翌日、朝食は納豆だけか、まったく食べない、あるいはココナッツオイルを入れたコーヒーだけにしています。よく「3食規則正しく」といわれますが、お腹が空いていないのに食べるのはナンセンスです。

現代人は糖質を取り過ぎる一方で、身体に本当に必要な栄養素が不足する「現代型栄養失調」状態に陥っています。納豆やみそなどの発酵食品をあまり食べない、あるいはごはんや麺類が好き、よく眠れない、イライラしやすいといった傾向があれば、主食は野菜や主菜の後に食べるのがオススメです。

食べる整腸剤&血糖値上昇を緩やかにする食物繊維のおかず(料理撮影/さくらいしょうこ)

ただし、糖質制限ダイエットで主食をまったく抜くのは大変危険です。ハーバード大学の研究では、炭水化物からの総エネルギー摂取が50~55%の群がもっとも死亡リスクが低いことが判明しています。少なすぎてもそして、多すぎてもリスクは高いのです。

茶碗に普通に盛った白米の糖質は50g前後ですが、私が監修したダイエット企画のテレビ番組で、1日の糖質摂取量150gを13人に1カ月間、実践してもらったところ、平均3kgの減量に成功しました。

どうかみなさんも野菜をよく食べ、ビタミンDを取り、1日1パックの納豆習慣で、今という一瞬を存分に生きて、真の意味での人生を全うされることを心から願っています。

<プロフィール>
日本初のアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」院長。医学博士、米国先端医療学会理事、日本抗加齢医学会評議会員。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員等を経た後、クリニックを開設。著書に『食べる投資』など多数。

『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』
満尾正著/アチーブメント出版刊 定価:1350円(税別)

◇百菜元気新聞の2020年7月1日号の記事を転載しました。