2016年、日本経済新聞に湯川れい子さんの「私の履歴書」が掲載され、大反響を呼びました。今年10月、そこに書かれていないことや書けなかったことを加筆して、初めての自叙伝として出版された湯川さん。取材に伺ったところ、穏やかな口ぶりとは裏腹に次々にビッグネームが飛び出し、圧倒されっぱなしのインタビューになりました。

未練がましくなんてない!きっぱりしている女性性を代弁

タイトルの「女ですもの泣きはしない」というのは、アン・ルイスさんの「六本木心中」の一節です。1980年代だったのですが、当時、男性が描く女性はみな未練がましくて女々しかった。でも、女性から見て魅力的な女性は違うのよね。もっときっぱりしている。そろそろ、そういう歌があってもいいんじゃないかと思って書いたのが「六本木心中」でした。

この少し前に、シンディ・ローパーが「Girls JustWant To Have Fun」という曲を発売して、世間に衝撃を与えました。女の子だって、男の子みたいにちょっと楽しみたいだけなのという歌。でも、日本のレコード会社は「ハイスクールはダンステリア」という、よく分からないタイトルをつけたのね。来日したシンディがそれにすごく怒って、タイトルを原題に変えさせたという事件があって、それもいいきっかけになりましたね。

その後、ドリームズ・カム・トゥルーが「うれしはずかし朝帰り」で、女の子だって朝まで遊びたいことがあるのよって歌って、またまた衝撃を与えました。

人間には男性性と女性性があって、これは本能的に違うものだと思います。この本も男性の編集者と毎回話をしながら綴ったから、恋愛に視点がいったのでしょうね。私自身が自分のことを書くなら、もっと音楽のことや世界中を巡った素敵な旅のことが中心になったと思いますよ。

亡き兄の嘘から始まった私の音楽人生

どんな人でも、人生は人との出会いが大切だと思います。そこには好奇心と集中力が必要。ミーハー力でもありますね。私は、エルビス・プレスリーに会いたいと思って、15年かけてようやく会えました。それは仕事でもなく、純粋に会いたいだけでした。

私がここまで音楽にのめり込めたのは、若くして亡くなった長兄が、戦地に行く直前に、口笛で吹いていた甘くきれいなメロディのおかげです。自分がつくったと言っていたその曲が、ある日、進駐軍放送のラジオから流れてきたんです。兄の曲のはずなのに、なぜラジオから? その謎を探すことに集中しました。

曲がハリー・ジェームス・オーケストラの「スリーピー・ラグーン(午後の入り江)」だと発見するまでに1年。兄がなぜ嘘をつかなければならなかったのかが分かるまでには、もっと長い年月がかかりました。詳細は本で読んでくださいね。そこにもいろいろな人との出会いがありました。

そんな思いや、自殺の多い時代に自分をもっと大切にしてほしいという思いを込めて作詞したのが、亀渕友香先生からゴスペルを日本人にも理解できるように作詞してと依頼された「きずな」という曲です。2006年のことでした。

いまは、さまざまなところで歌っていただいていて、山口では「山口きずな音楽祭」という大掛かりなイベントにまでなっています。今年は12月25日に山口市民会館大ホールで開催されます。ぜひ、いらしてくださいね。

カリフラワーを生で食べさせてくれたシャーリー・マクレーンとの思い出

野菜は毎日いっぱい食べていますよ。大好きです。いまの季節は、かぼちゃとじゃがいもが毎日食卓に出てきますね。 昨年8月、エルビス・プレスリーが亡くなって41年ということでメンフィスに行き、その帰りにナッシュビルのジャニス・イアンを訪ねました。ちょうど皆既日食の日でした。

現在、ナッシュビルに住んでいるアンジェラ・アキさんも呼んで、ジャニスがプールサイドでバーベキューをやってくれました。出してくれたお野菜がとても元気で、びっくり。

翌日、スーパーマーケットに行って分かったのですが、お野菜が豊富なの。しかも、ほとんどオーガニック。「なんでアメリカって、いきなりこんなにすごくなるの!」って叫んでしまったくらい。

80年代に、シャーリー・マクレーンをマリブに訪ねたことがあったのですが、その時に彼女が、ディップをつけて食べるサラダを出してくれたの。その時に私、初めて生のカリフラワーを食べたんです。ブロッコリーも、赤や黄色や緑のピーマンもすべて生で、甘くておいしかったのが、楽しい記憶として残っています。

<プロフィール>
ゆかわ・れいこ 1960年、ジャズ専門誌「スイングジャーナル」でジャズ評論家としてデビュー。エルビス・プレスリー、ザ・ビートルズ、マイケル・ジャクソンなど世界中のミュージシャンと交流し、音楽評論家の第一人者となる。作詞家としても「六本木心中」「恋におちて -Fall in love-」などのヒットを飛ばす。音楽評論家、作詞家、ラジオDJ、日本音楽療法学会理事等、現在も幅広く活躍中。

●『女ですもの泣きはしない』湯川れい子著

発行:KADOKAWA
発売日:2018年10月19日
価格:1,600円(税別)

◇百菜元気新聞の2018年12月1日号の記事を転載しました。