何かと注目されることが多いキャラクター×食のコラボ。かわいいだけでなく、アニメや漫画と食が組み合わさることで新しい物語が生まれることもあります。たべぷろの新企画「たべものがたり」第1回は、キャラクター×食のコラボで地域おこしに尽力されている手塚プロダクションの石渡正人さんを鈴木里加子が訪ねて、話題の「アトム七味」と地域やキャラクター、食について対談させていただきました。

高田馬場は鉄腕アトムの故郷!?手塚治虫先生と地域の意外な関係

手塚プロダクション:石渡正人
広告企画会社勤務を経て、2000年株式会社手塚プロダクション入社。現在、同社クリエイティブ部部長、東京富士大学客員教授、早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員、アトム通貨実行委員会本部副会長。得意分野は、キャラクタービジネス、地域デザイン、メディア論。著書に『鉄腕アトムの軌跡』『地域通貨』『メディアの将来像を探る』『アトム通貨で描くコミュニティデザイン』などがある。

たべものがたり監修:鈴木里加子
法政大学大学院政策創造研究科修了号取得後、法政大学大学院地域創造システム研究所所属。食の地域ブランド開発を主に手がける。又、民間企業のコンサルティング業務も行う。主に、飲食店の業態開発から販促・プロモーション業務。出版社と共同企画にも取り組む。レシピ本の企画やイベントまで食分野に幅広く携わる。近年はマンガ・アニメを起用した地域コンテンツと地域食をコラボレーションした企画に邁進。

高田馬場駅に着くと手塚キャラがお出迎え(東京都新宿区)

鈴木:東京の高田馬場に来てみると、手塚プロダクションのキャラクターたちが多く出迎えてくれますね。駅の高架下の壁画や街頭にも、「鉄腕アトム」や「リボンの騎士」などの人気キャラクターが目に留まります。それだけ、高田馬場とのつながりが深いということでしょうか。

石渡氏:そうですね。そもそもは手塚治虫先生が『鉄腕アトム』の漫画の中で「2003年に高田馬場でアトムが生まれた」という設定にしていたことがきっかけです。事務所も1976年に高田馬場に移転し、そこからのお付き合いです。

鈴木:地元の方々と手塚プロダクションの交流には手塚先生も加わっていたのでしょうか。

石渡氏:そのようですね。手塚先生がご自身で、地元の祭りなどにアトムのセル画を提供したそうです。また、今でも地元の方々に親しまれている『一番飯店』や『青柳』など、近隣の店もよく利用していたそうで、商店街の方たちとたくさん交流していました。

手塚治虫先生御用達の和菓子店「青柳」

鈴木:なるほど、手塚先生も慣れ親しんだ街なのですね。高田馬場の方々にとってもきっと、手塚プロダクションのキャラクターたちは親しみやすいものになっているのではないでしょうか。

石渡氏:高田馬場の方たちからは、アトムの生まれ年である2003年に駅の発着チャイムをアトムのテーマソングに変えたり、アトム誕生記念仮装パレードを開催したりと街を上げてアトムの生誕を盛り上げてくださいました。この2003年に新宿区長から、アトムは新宿区未来特使に任命されています。

鈴木:手塚プロダクションと高田馬場の関係は長い時間をかけて作られたものだったんですね。商店街に還元するようなキャラクターのイベント等も積極的に行っていると聞きました。

石渡氏:キャラクターを応援してもらっているからこそ、こちらも恩返しをしたいとの思いで地域おこしに協力しています。アトム通貨などその一例です。最近ではよりこの地域を盛り上げるべく「地域ブランドの確立」にも尽力できたらと考えています。

新宿名物「内藤とうがらし」とアトムがコラボ!高田馬場を盛り上げる名アイテムに

鈴木:そこでキーポイントとなったのが今や東京江戸野菜としても認定されている「内藤とうがらし」というわけですね。手塚プロダクションとしてはアトムとコラボレーションし、2018年2月から「アトム七味」としても販売されていますね。

石渡氏:はい。高田馬場の地域ブランドをつくりたいと前々から考えていて、いろいろ模索しているときに見つけたのが内藤とうがらしでした。

鈴木:内藤とうがらしは400年近く前から存在していたいわゆる東京の「ブランド野菜」ですよね。

石渡氏:その通りです。新宿が宿場町だった江戸時代のころには、辺り一面がとうがらし畑だったという資料も残っています。ところが明治以降、新宿周辺の役割も変わり、都市化が進んでいきました。そのときとうがらし畑もなくなってしまい、内藤とうがらしの面影はなくなってしまったんです。

鈴木:せっかくの地域野菜は一時的に姿を消してしまっていたんですね。それを現在に復活させたということでしょうか。

石渡氏:内藤とうがらしを研究していた成田重行さん(新宿内藤とうがらしプロジェクトリーダー)とお話する機会があり、復活させる動きを知りました。そこで、そのお手伝いをしながら、あわよくば地域ブランドに発展させたいと思ったのがはじまりです。

(画像提供:手塚プロダクション)

鈴木:内藤とうがらしは、プランターで簡単に育てることができるそうですね。畑がなくても栽培できると聞きましたが、どのように育てているのでしょうか。

石渡氏:高田馬場で栽培をスタートさせたのは2011年ごろ。始めたばかりのころは高田馬場周辺の企業に声をかけ、17社に協力していただきました。協力企業は年々増えていき、現在では100社以上の企業がベランダにプランターを並べて育てています。

鈴木:たくさんの方々が協力してつくられているのですね。企業に声をかけた点が面白いですが、栽培された内藤とうがらしをどうされようと思ったのですか。

石渡氏:銀座のミツバチプロジェクトのように、地元企業が育てた食材を地元飲食店で提供するカタチにしようと思っていました。栽培したとうがらしをどう活用するか、商店街の方々とアイデアを出し合い、内藤とうがらしを使ったイベントを開催しています。
たとえば「高田馬場ラーメン組合」と一緒に「内藤とうがらしラーメンフェア」の開催や、さまざまなジャンルの飲食店で内藤とうがらしの料理を提供し、食べ歩き、飲み歩きが楽しめるまちバル形式のイベント「バル辛フェスタ」を行ったりしています。

鈴木:バル辛フェスタなどは認知も広まっていて毎年多くの方で盛り上がっているそうですね。盛況のようですが、そこからあえてキャラクターとコラボしての商品開発にいたるきっかけはあったのでしょうか。

石渡氏:もともと高田馬場は地域資源があまりなかったので、地域発信商品をつくりたい気持ちはありました。ただ、いきなり誰も知らない内藤とうがらしの商品が出てきても、地域ブランドとしてなかなか受け入れられないですよね。
地域ブランドにするには地域に多くの賛同者を得ることが必要。時間をかけて少しずつ理解者を増やし、しっかり根を張っていくことが大切です。だからこそ、企業や飲食店を巻き込んで、仲間を増やすことからはじめました。イベントも定着し、内藤とうがらしも浸透してきたタイミングで、当初からの目的のひとつであった商品開発を進めることにしたのです。

鈴木:ちょうど内藤とうがらしが「江戸東京野菜」に認定されたときでもありますね。

石渡氏:そうですね。さらに内藤とうがらしの専業農家ができた時期でもあり、安定した供給ができるようになった点も大きいです。これまでは自分たちで育てるしかなかったので、品質としても量としても、充分な対応をすることができませんでした。
その点も改善され、この一連の活動のフラッグになるような、内藤とうがらしを高田馬場の地域ブランドとして確立させるような地域発信商品が必要なタイミングが来たと思い、今回の「アトム七味」の製造になりました。

国産の山椒がピリリと効いたオリジナル「アトム七味」の魅力

鈴木:「アトム七味」の大きな特徴の一つに、国産の山椒が使われているということがありますよね。また、開発時から女性スタッフの意見も取り入れるなど、細かなこだわりが付加価値になって、人気を呼んでいるように思います。

石渡氏:高田馬場はラーメン店が多いので、ラーメンに合わせてニンニクパウダーを入れてはどうかという提案もありましたが、用途が限定されるので、NGにしました。たくさんの人に使ってもらえ、かつオリジナリティをしっかり出すために、相性の良い山椒を加えるようにしました。それに黒ゴマ。アトムカラーである赤、緑、黒に合わせ、とうがらし、山椒、ゴマをセレクトしました。

鈴木:山椒もそうですが、日本ではとうがらしの9割以上が輸入となっているので、国産のとうがらしというだけでも付加価値が高いように感じます。今後何かほかにフレーバーを出す予定はありますか?

石渡氏:出したいとは考えています。たとえば、高田馬場はエスニックのお店が多いので、パクチーやレモングラスを取り入れたりするとおもしろそうだなと思います。とうがらしはいろいろな料理で使えるところが魅力ですね。

キャラクター×食×地域の未来は無限大!それぞれの物語が深みになる

鈴木:キャラクター×食のビジネスは増えてきているように感じますが、ライセンスを提供する立場としてのお考えを聞かせていただけますか。

石渡氏:キャラと食はかなり相性がいいと思います。もともと日本のアニメーションを支えてくれたのはお菓子メーカーです。テレビアニメが始まったばかりのころにスポンサーになってくれ、アニメ制作の資金を一部負担してくれました。
その見返りとして自社の商品パッケージにアニメキャラクターをプリントしたり、オマケにキャラクターを使用したりするようになり、子どもたちから人気を獲得して商品が売れるようになりました。持ちつ持たれつ、Win-winの関係といえますよね。

鈴木:近年話題となっているキャラ弁も、子どもが食べるきっかけになっていますよね。同じ食材でもキャラクターになっているだけで魂が入っているように感じます。パッケージもキャラクターが載っていると話題性になったり、誰かにプレゼントしたりしたいなと考えるようになりますし、キャラの強みは食の中でも今後重要な分野になっていくのかなと感じました。

石渡氏:そうですね、食品にキャラクターがつくことで差別化できるというメリットはあります。また、食からキャラクター文化を好きになる人もいます。日本はキャラクター文化のマーケットが世界第二位ですから、子どもだけでなく、大人の女性が「かわいい」と感じて購入することもありますね。漫画やアニメのストーリーに大人がハマることもありますし、キャラクターカフェなどの他にもまだまだ可能性はあると思います。

鈴木:その点においては地域にもストーリー性がありますよね。今回は、アトム、アニメ、高田馬場、とうがらしなどのさまざまな物語が重なり合っているように思います。

石渡氏:物語は重要ですね。パッケージにキャラクターがついているだけで良い商品もありますが、小ロットで高コスト、つくりて本位の地域発信商品では、このパターンは成立しないように感じます。
地域の歴史や文化が詰まった食材に、地域を代表するキャラクターと物語がついてくる。それでこそ地域の人から愛着を持たれ、誇りを持たれ、そこではじめて「地域ブランド」に育っていくと思います。

鈴木:それには、地域の方々の協力も欠かせませんね。

石渡氏:そうですね。地域の多くの人がかかわること、それなりの時間をかけることが必要です。そこではかかわる人たちそれぞれに物語も生まれてきます。物語があってこそのブランドであり、人々は地域の物語も含めてその商品を購入する。そこから地域のファンにつながります。

鈴木:この手塚プロダクションと内藤とうがらしの組み合わせは、単なる食×キャラクターのコラボだけでなく、社会貢献事業としてかなり尽力されているように感じました。まだまだ高田馬場、そして新宿区全体で盛り上がっていきそうなプロジェクトとして期待できそうですね。お話いただき、ありがとうございました。

「たべものがたり」ではキャラ×食×地域のコラボをリポートしていきます

今回のお話では、「アトム七味」の魅力だけでなく、食とキャラクターのコラボレーションや、地域とのコラボレーションなど、改めてさまざまなストーリーを組み合わせて考えられていることが窺えました。秋には「バル辛フェスタ」が今年も開催予定。こちらもリポートさせていただく予定です!