不思議な店名を持つこの弁当店は、「Soup Stock Tokyo」を展開するスマイルズが昨年、銀座に出店した“海苔弁”の専門店だ。現在は、もっと単価の高い弁当や、太巻きの海苔巻きである「海苔弁巻」などのような商品も販売しているが、この店のメーン商品は「海」「山」「畑」という3種類の海苔弁のみ。どれも同じ価格だが、中身にはそれぞれ異なったこだわりが詰まっている。

「海」は大ぶりな焼き鮭、ちくわの磯辺揚げ、卵焼き。「山」は塩麹を揉み込んだ鶏の照り焼きに煮卵。「畑」はレンコン大葉もち、マイタケの天ぷら、煎(い)り豆腐などが主なおかずだ。

そして、一番のこだわりは海苔。有明海苔の上位1%で、葉が軟らかい一番摘みのものを使用しているという。

だが何よりも優れているのは、同店の商品コンセプトだろう。誰もが、最も大衆的な商品と考える海苔弁を、1080円という価格で銀座の真ん中で販売するというアイデアは、簡単ではない。

構成要素の一つ一つは、外食業界に関わる企業であれば決して難しいものではないからこそ、学ぶべきところは多いはずだ。

スマイルズの遠藤社長は企画の達人だという噂を聞く。三菱商事から日本ケンタッキー・フライド・チキン(当時)に出向していたとき、「Soup Stock Tokyo」という新規事業のために書いた「スープのある一日」という物語形式の企画書は、いまや伝説のように語り継がれている。

スマイルズという会社が、三菱商事のコーポレートベンチャー0号として設立されるに至るエピソードの一つだ。

同社の事業はどれもみなユニークなものばかりだが、スタンダードな食品をブランド化する手法を得た同社は今後、どこへ向かうのだろう。

◆店舗情報
「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」
所在地=東京都中央区銀座 6-10-1 GINZA SIX B2階 ※築地でも販売

◇外食レストラン新聞の2018年6月4日号の記事を転載しました。