九州では鶏肉を「かしわ」と呼び、その炊き込みご飯を「かしわめし」と呼ぶ。郷土料理として古くから家庭や食堂で作られてきた鶏料理だが、かしわめしを一躍有名にした中興の祖は、JR折尾駅で駅弁を製造・販売する「東筑軒」といわれる。1921年の創業時に始めた「かしわ・錦糸玉子・刻み海苔」の「三色斜め盛り」が、いまに伝わる一般的なかしわめしの定義となり、福岡県内・周辺に広がった。

鶏スープでご飯を炊く

東筑軒の創業者は、国鉄の門司運転事務所所長を務めていた本庄巌水氏。東京や大阪に出張の際、各地の駅弁に特徴がないことを実感。郷土色を生かした駅弁づくりを決意し、1921年に国鉄・折尾駅で「筑紫軒」という弁当屋を始めた。

そして、鶏肉を好む福岡の土地柄に合わせ、鶏スープの炊き込みご飯に鶏肉と錦糸玉子をのせた「親子めし」を考案した。だが、ホームの立ち売りで「親子めし」と叫ぶと「親殺し」に聞こえてしまうため、名前を「かしわめし」に変更。この威勢よく聞きなれない名前に旅客が飛びつき、全国に知られる名物弁当に成長した。

筑紫軒は、1942年の戦時国策により折尾の「眞養亭」「吉田弁当」、直方の「東洋軒」と合併し、現在の東筑軒となった。

丸鶏を炊いて炊き込みご飯用のスープをとり、炊いた丸鶏は一晩寝かせる

丸鶏を炊いて鶏スープをとり、鶏スープでご飯を炊く。炊いた丸鶏は冷蔵庫で一晩寝かした後、骨を取り除いて削ぎ切りし、調味料とともに大釜に入れて煮焼きする。香ばしくフレーク状に仕上がれば完成だ。

「鶏肉以上にご飯がうまい」と評価されている炊き込みご飯は、創業者の妻・スヨ氏が開発した独自調味料が決め手。門外不出の一子相伝の味として代々女性のみに受け継がれている。

鉄道全盛期よりも拡張発展

平日の日販は約3000食。行事や催事などの繁忙日は約1万5000食にも達する。定番のかしわめしが販売数の大半を占めるが、おかず入りの仕出し弁当(要予約)の種類も数多い。特急や急行が激減した現在、地元の駅売りは苦戦しているが、多店舗化や委託販売の販路拡大により、鉄道全盛期よりも販売実績を伸ばしている。

一晩寝かせた鶏肉を裂いて大釜に入れ、調味料を加えて煮焼きする

九州には、かしわめしを販売する駅弁業者が数社あるが、東筑軒に並んで有名なのが、小倉駅を拠点とする「北九州弁当」と、鳥栖駅の「中央軒」。

いずれもかしわめしを名物に掲げており、1891年創業の北九州弁当は門司駅で九州で初めての駅弁を販売、中央軒は1913年に日本で初めて「かしわめし」を販売するなど、東筑軒に勝る歴史を誇る。かしわめしの繁栄と認知普及に先駆け、牽引してきた3社の功績は大きい。

繁忙日は前夜から夜通しで調理作業が続く

いまやコンビニやスーパーでも普通に販売されているが、それらを普及させた原動力は、駅弁3社による切磋琢磨といってよかろう。

【会社概要】
東筑軒
本社:福岡県北九州市八幡西区堀川町4-1
JR折尾駅など直営17店、委託販売17店

◇外食レストラン新聞の2018年4月2日号の記事を転載しました。