加工食品でも比較的ニッチな「味付きゆで卵」の分野で、発売から35年超のロングセラーながら売上げを伸ばしている商品がある。三井物産の関係会社で、配合飼料を扱うフィード・ワン(神奈川県横浜市)のグループ会社が販売する「マジックパール」がそれだ。家庭では再現できない絶妙な“硬半熟”の食感で根強いファンを持ち、JR売店など駅ルートでの販売に圧倒的な強みを発揮している。

殻付きの状態での味付きのゆで卵を実現

昨今の簡便・時短ニーズに基づく「食の外部化」はゆで卵の分野にも波及しているとみられ、前3月期は2桁増ペースで売上げを伸ばした。国際的な評価基準を満たすモンドセレクションの2017年度銀賞も獲得するなど、勢いに乗っている。

「マジックパール」はフィード・ワンの連結子会社である東日本マジックパール(岩手県)、西日本マジックパール(兵庫県)の東西2工場で製造。かつてはゆで卵に塩を別添して販売していたが、より手軽に食べやすい商品を目指し、製造に浸透圧の技術を利用した“殻付きの状態での味付き”のゆで卵を実現した。

現在の市場では同様の商品が一般的となっているが、同品は1980年に「マジックパール」のネーミングで発売へ乗り出しており、国内における味付きゆで卵の元祖ともいえる商品だ。

発売当初は主に旅のお供として、盛岡駅、次に仙台駅、そして上野駅の売店へ進出し、瞬く間に全国へ販売を拡大。昭和50年代のスーパー全盛期の流れに乗って市販ルートにも進出し、現在は駅売店をはじめ、一部コンビニやスーパーの惣菜・弁当売場、高速道路のサービスエリア、道の駅などのチャネルで幅広く販売されている。

商品の最大の特徴は、独自の味・食感に集約される。殻付きのままでも卵全体に程よく味が染み通り、黄身が半熟に近い「硬半熟」の食感が楽しめる。一度食べるとクセになる魅力があり、それが幅広い層に支持されるロングセラー商品に育った秘訣ともいえる。

「競合品の味付けは塩だけだが、当社は砂糖や調味料を用いた独自のレシピでまろやかな味を実現。硬半熟の独特な食感を持たせるために、最後は人の検査も導入して“7分ゆで”の微妙なボイル加減を調整している」(東日本マジックパール)とノウハウの一端を語る。

常温で扱えるのも商品の特徴

温度管理設備を持たない駅売店で販売をスタートした経緯から、常温で扱えるのも商品の特徴だ。工場での製造、保管、物流までを一定の温度で行うシステムを確立し、極力経時変化を起こさない体制で店頭へ供給。賞味期限は8~9日で、売場を限定せずに陳列・販売できることが間口の拡大へつながっている。

現在、アイテムは2個入りやボックスタイプなどを揃えているが、駅売りの主力となる1個タイプは、ネット入りの個性的なパッケージ。中身の包装用紙は商品の一括表示と兼ねてナプキンに使える素材を用い、むいた殻を包めばそのままゴミ箱に捨てられる。細かい部分まで商品の利便性にこだわったのも、長年支持されている理由のひとつだ。

前3月期の「マジックパール」販売個数は、東西合わせて前年比10%増の好調な伸びを確保した。食品の扱いを強化するドラッグストアなど売り先の間口拡大に加え、消費ニーズの変化が販売量の増加に寄与していると分析。

「家で入れるのが当たり前だったお茶がPETボトルで売れているのと同様に、ゆで卵も店頭で買われる傾向が強まっている」(同)とみており、簡便志向・調理の時短ニーズの高まりによる「食の外部化」が追い風となっているようだ。

ネット通販の強化や海外市場への輸出を検討

今後の拡大戦略として、ネット通販の強化や海外市場への輸出を検討する。アジア圏は卵の消費量が多いため、付加価値の高い日本産の味付きゆで卵は大きな可能性を秘めるとみており、東日本マジックパールにおいて17年3月には国際衛生管理基準に準じたISO22000の認証を取得した。

国内ではファン層の拡大へ向け、幼稚園などのイベント協賛ほか、フィード・ワンがCSRの一環として取り組む中学校・高校での食育活動でサンプル配布するなど、草の根戦略的に商品認知度の向上へ努めている。

「マジックパール」は2014年に続き、今年もモンドセレクションの銀賞を獲得(2個パック入り)。長年の製造ノウハウに裏打ちされた商品力、多くの人が行き交う駅ルートで圧倒的なシェアを持つ強みを生かし、さらなる新規販路の開拓へ力を注ぐ方針だ。

◇日本食糧新聞の2017年9月22日号の記事を転載しました。