ロングセラーの『常備菜』をはじめ、100冊以上のレシピ本を手掛ける人気料理家・飛田和緒さん。素材の味を引き出すシンプルでおいしい料理をつくるポイントは、基本の調味料「塩」「しょうゆ」「みそ」を使いこなすことだそうです。これらの調味料を野菜料理に使うコツ、地元のおいしい野菜や常備菜をつくる秘訣について教えていただきました。

どの調味料を使う場合も味をつけすぎず、仕上げに味見を

すべての味つけの基本は塩です。野菜、肉、魚の下処理に必要ですし、何より食材のうま味を引き出すので、塩の使い方を知れば、味つけがうまくいくんです。例えば、小松菜の塩炒め。小松菜に塩をふるのではなく、油に塩をなじませてから炒めることで、まんべんなく味がつき、塩の入れ過ぎも防げます。中火で茎から炒め、葉を加えてサッと炒めあげれば、おいしく仕上がりますよ。

主に使っている塩は沖縄の「粟国の塩」。絶対にコレというのではなく、近所のスーパーで売っているから(笑)。手に入りやすい天日塩を使えばいいと思います。

料理家・飛田和緒さん

しょうゆは、香りを生かすためにも使うタイミングが大事。野菜の煮物をつくる時は、最初に砂糖と酒で味をつけ、野菜を煮て、最後にしょうゆを加え一気に煮詰めます。野菜がやわらかくなっているので少しのしょうゆでも味を含み、濃くならずに済むんですよね。大きいボトルのしょうゆを買ってしまうと、使い切る頃に味や香りが変わってしまうので、小瓶を購入しています。もったいないかなとも思うのですが、やっぱりしょうゆがおいしくないと料理はうまくできないですから。

みそは奥深さを出してくれる調味料。煮つけやホワイトソースにみそをほんの少し加えるだけでコクが出るんです。みそを溶かしてから食材にからめたり、油となじませてから炒めると味が全体に行きわたります。白みそと合わせみそがあれば便利ですね。

どの調味料を使う場合も、最初に味をつけすぎないことが大切。また、どうしても最初に味を決めようとしがちです。でも、調理の途中に素材のうま味が出ておいしくなることもあるので、食べる直前に味を確認し、調整しましょう。

地元の野菜で楽しみなのは田んぼの畔で取れる「たのくろ豆」

これからの季節は、チンゲン菜やほうれん草などの青菜やきのこがおいしいですよね。塩味だけでつくるおひたし、ごま油と塩の炒めもの、塩・にんにく・ごま油であえたナムルなど、塩の使い方によって簡単におかずのバリエーションが広がります。しいたけやまつたけを焼いて、塩をパラッとふるだけでも、おいしく仕上がりますよ。

その際、自然塩を使うと湿り気があるので表面に塩が固まってしまうことも。気になるようであれば、ひと手間ですが、フライパンや鍋で炒って水分をとばしてから使うといいでしょう。いまの時期なら一度つくっておくと、日持ちすると思います。

チンゲン菜の梅塩炒め レシピ
フライパンに油を熱してから塩を落とし、野菜を炒めると味がしっかりなじみます。

葉山に引っ越してきたのは17年ほど前。家族も友人もいない見ず知らずの土地だったので、地元の食材を知ったのは住み始めてから。魚屋さんに通ったり、直売所や市場を見つける中で、おいしい魚や季節の野菜を知り、地元の方とのつながりもできました。

葉山の野菜で一番心待ちにしているのは、田んぼの畔(あぜ)で栽培される枝豆「たのくろ豆」。すごくおいしくて、地元の人たちがこぞって買い行くので、すぐに売り切れてしまうんです。収穫時期は一瞬で、天候によっても変わるので、毎日、直売所に通わないと手に入らないんですよね。

この時期、直売所には、おろ抜き大根といって、間引いた大根の葉だけが売られています。青々しく水分があり、やわらかくておいしいんです。しかも、とてもリーズナブル。葉をきざんでじゃこと炒めたり、餃子のタネに入れることも。大根の葉はいろいろな調理に使えるので、大根を買う時は、必ず葉付きを選んでいます。

常備菜作りは、一気にではなくキッチンに立った時にできることを

『常備菜』の本を出したのは娘が4歳の頃。週末に一気に常備菜をつくっておかないと、てんてこまいな日々でした。いまは、娘も成長して生活スタイルが変わったこともあり、常備菜をつくるのは朝食やお弁当作り、夕飯の前後などキッチンに立った時。半端な野菜が出たらきざんでひと塩ふっておく、時間があれば炒める、ゆでるなど、できる限りのことをしています。

また、野菜を買ってきたら、そのまま冷蔵庫にしまわず、少しだけ下ごしらえをしておくと、食事作りがぐんとラクになります。気持ちに余裕もできるし、無駄な買い物も減りますよ。お弁当生活は続いているので、「常備菜があってよかった!」と思うことは毎日(笑)。やっぱり常備菜があると便利ですよね。

しいたけの塩焼き レシピ
「しいたけの塩焼き」は、中火で焼いて、水滴が出てきたら塩をパラッとふりかけて。

先日、地元のスーパーに取材に行く機会があり、店長さんの説明を聞きながら巡ったんです。いつも通っているのに、知らない商品がたくさんあって驚きました。行き慣れたスーパーも、いま一度見直してみることで、これまで使っていた調味料より自分に合うものが見つかるかもしれません。買ってはみたものの好みの味ではなかったということもありますよね。そんな時私は、漬物をつけたり、ニンニクじょうゆや、しょうゆ漬けのしょうがをつくったりしています。

どんなに一生懸命料理をしても、好きな味の調味料を使わないと、おいしく仕上がらないものです。塩、しょうゆ、みそ、それぞれ好みの味を見つけることが、おいしい料理をつくる基本かもしれないですね。

〈プロフィル〉
ひだ・かずお 料理家。誰でもおいしくつくれる素材を生かしたシンプルなレシピが、幅広い世代から支持されている。味つけのベースは、生まれ育った東京や高校3年間を過ごした長野の味。現在は夫、娘と湘南で暮らし、地元の食材を各地で出会ったお気に入りの調味料を使って料理する毎日。2011年刊行のロングセラー『常備菜』(主婦と生活社)をはじめ、著書は100冊以上。Instagram @hida_kazuo

飛田さん著書『塩、しょうゆ、みそで飛田式おかず』

『塩、しょうゆ、みそで飛田式おかず』
飛田和緒著/西東社
定価:1430円(税込)

◇百菜元気新聞の2022年11月1日号の記事を転載しました。