「ひつまぶし」といえば、言わずと知れた名古屋名物。一食を「そのまま」「薬味と一緒に」「だしをかけて」の三つの食べ方で楽しむことができるメニュー。これをウナギではなく豚肉でアレンジしたのが、「海里」の「とん豚ひつまぶし」だ。

角煮を蒲焼きの代用に

ひつまぶしの豚肉バージョンと聞くと、甘辛く焼いた豚肉をライスの上にのせたものをイメージするが、「それではただの家庭料理。店で提供するメニューとして成立しません」と語るのは若林勇店主。

とん豚ひつまぶし 1,200円(税抜き) 昆布とカツオでとっただしをかける

最終的には豚肉を選択したが、そこにたどり着くまでには紆余曲折があった。ウナギの代わりの食材として、まず思いつくのは魚。「サンマやイワシを蒲焼き風にしてみました。もちろんおいしいのですが、自分の中のひつまぶしのイメージとは違う。牛肉や鶏肉でもトライしましたが、牛肉だと脂っぽいし、鶏肉だとパサつきが気になる。豚肉もただ焼いただけでは、ウナギの蒲焼きのふっくら感と香ばしさが再現できないんです」。

ご飯に刻み海苔と三つ葉、その上に香ばしく炙った豚肉をのせる。だしだけを味わうこともできる。豚肉はこの状態で約120g

行きづまって約1年間中断。そんなある日、夢を見た。「肉を煮込んでいる夢なんですが、目覚めた時、そうか! 角煮にすれば蒲焼きの軟らかさが出るとひらめきました。ウナギを蒸す工程を煮込むことに置き換えて軟らかさを出すということです」。

豚肩ロースを5時間煮込む

豚肩ロースをタレで5時間煮込む。これをいったん冷まし、カットした豚肉を注文を受けてから炙って焼き色を付ける。こうすることで食感はふっくら軟らかく、焼き目の香ばしさが口の中に広がるひつまぶしが完成するというわけだ。

「とん豚ひつまぶし」は、店の所在地にちなんで“赤羽名物”をうたっている。「最初はちょっとはったりだったんですけどね(笑)」と言うが、誕生からすでに15年間、お客さんから愛され続けるロングセラーメニューは、立派なご当地名物といえるだろう。

●店舗情報
「海里(みさと)」
所在地=東京都北区赤羽1-41-16
開業=1995年
坪数・席数=約20坪・30席
営業時間=月~金11時30分~14時、18時~23時、土18時~23時。日・祝休
平均客単価=昼1000円、夜3500~4000円
1日平均集客数=約40人

◇外食レストラン新聞の2019年7月1日号の記事を転載しました。