東京都江戸川区在住ですが遠くへ引っ越す予定のたべぷろ編集部員・空居済名です。5月27日は小松菜の日なのだそうです。なお、こ、(ま)、つ、な、の語呂合わせから決められたもので、5月頃が旬だという意味ではありません。今回は、江戸川区と小松菜の縁とおいしい食べ方についてご紹介します。

江戸川区の名物は小松菜

江戸川区は、東京23区の一つです。そこだけでくくれば、渋谷や、世田谷と同じです。しかし…この江戸川区には、摩天楼もなければ、街を象徴するランドマークもなく、特に言うほどお洒落な街並みがあるわけでもありません。

一枚、写真をお見せします。都営地下鉄一之江駅から2分ほどの立地のところです。それがこんな感じなのです。

その近くで、もう一枚。

ご覧の通り、野菜の直売所です。まあ、江戸川区にそんなに言うほど田んぼや畑が多いわけではないですし、基本的には住宅地で、最近は新興マンションも随分増えましたが、ともかく、江戸川区という所が、特に都外の方が「23区」という言葉から連想するような場所ではないということだけは、確かです。

この直売所がこまつなくん、という名前なのは、江戸川区の名物は小松菜だからです。

村の名を取って「小松菜」に

小松菜の発祥の地はどこでしょうか。ルーツを遠く辿っていくと、学説によってヨーロッパに起源があるとかアフガニスタンであるとか、なんだかグローバルな話になりますが、現在の形の小松菜として品種改良されたのは、そう遠くない昔、江戸時代頃、そしてその場所はこの江戸川区だったのだそうです。

なお、江戸時代、いま江戸川区と呼ばれているこのあたりは、そもそも江戸ではありませんでした。武蔵国葛飾郡に属し、小岩村などの村が点在していました。といっても、貧しい地域だったわけではありません。江戸で消費される野菜をこのあたりで栽培していて、江戸の人々にこれが好まれ、多くの豪農が栄えたそうです。

その一つに、小松菜もあったわけです。ある時、あるお殿様(一説には、8代将軍徳川吉宗であったといわれます)が狩りの帰りに、この地で、近くの畑で採れた菜のすまし汁を召し上がり、これはよい味だ、何という菜であるか、とお尋ねになりました。

作られ始めたばかりだったその菜は、まだ名がありませんでしたので、その旨を申し上げますと、殿様は村の名を尋ねました。村の名は、小松川村(この地名は今でも区内に残っています)と言いました。

「そうか。ならば余が名を付けよう。今後これを、村の名を取って小松菜と呼ぶように」

これが、小松菜の誕生の由来です。

小松菜の新しい魅力

さて、お殿様が召し上がった小松菜はすまし汁で、小松菜のすまし汁といえば今でも東京圏の正月の雑煮などを代表する存在ですが、これは流石に今となってはポピュラーすぎる話ですので、もう少し掘り下げてみましょう。

時は下り現代、江戸川区では、小松菜を名産品として大々的にアピールしています。商工会議所が「おいしい小松菜レシピ大募集」という企画を催していたり、なかなかに涙ぐましいです。

小松菜は癖のない野菜ですから用途は幅広く、カレーに足したり、パスタに入れたり、何でもござれですが、ちょっと風変わりな食べ方としては、「小松菜スイーツ」というのがあります。ちなみに、小松菜レシピ募集のグランプリに輝いたのも小松菜ロールケーキでした。

区内の何店かの洋菓子店などで、取り扱いがあります。こちらは、都営新宿線瑞江駅近く、パティスリー・ナガキタの、小松菜を使った焼き菓子です(一番上の写真も同じ物です)。

どれも小松菜らしく癖のない、優しい味わいです。ちなみに、上の方の写真でご紹介した一之江の、富沢さんという農家で作っている小松菜を使っているそうです。

また、こちらは区内のお店ではないのですが、中目黒のパティスリー・ポタジエという野菜スイーツ専門店の作品で、コマツナ緑茶シフォンというケーキです。

こちらは生菓子であり、また「野菜の持ち味を引き出す」ということにこだわりのあるお店なので、なかなか「駆け抜けるような清涼さ」を感じるお味でした。

さて、これで私の江戸川区に対するたった一つの未練、「実は小松菜をアピールしているってことを皆に紹介してあげたい」という思いは無事解消しました。心置きなく、旅立つことといたします。