電子レンジで加熱するだけで簡単に蒸し料理ができるシリコンスチーマーが、大ヒット商品になったことからも明らかなように、昨今は蒸し物の人気が高い。人気の波に乗って店でメニューとして提供するなら、家庭料理にはない付加価値を付ける必要がある。それを見事に実現したのが、「魚せん」の「ちゃんこセイロ蒸し」だ。

“冬は鍋”という固定観念を払拭

「ちゃんこセイロ蒸し」誕生のきっかけは、「寒い時期、鍋以外でお客さまに喜んでいただけるメニューはないかと考えました。素材の味を崩さず、野菜がたくさん食べられる提供の仕方としてセイロ蒸しを思い付きました」と小泉繁樹店主。“冬は鍋”という固定観念を払拭したところに、このメニューの力が秘められていると言っていいだろう。実際、“飲み会といえば鍋”のワンパターンに食傷気味だった客からオーダーが集まっている。

「ちゃんこセイロ蒸し」の売りはまず具だくさんなこと。レタス、キャベツ、ネギ、エノキ、大根、カボチャ、ニンジン、紫サツマイモ、ハーブミックなどの野菜に、豚ばら肉、エビ、アサリ、豆腐など、具材は全部で15種類。野菜好きはもちろん、生野菜は苦手という人でも、蒸すことで野菜の食感も味も軟らかくなって食べやすい。

写真は「ちゃんこセイロ蒸し」に別メニューの「信州産鹿肉ソーセージ&信州産鹿肉フランクソーセージのチーズかけベーコンしき」をプラスした豪華版

 見た目→香り→味の順で感動を呼ぶ

このメニューを特徴付けているのが、水ではなくだし汁で蒸す点。「最初のころは水で蒸していましたが、出来上がりに納得がいかず……。だし汁で蒸すことで、これまでにはない仕上がりになりました」

提供の仕方にも工夫がある。注文した客の前にはカセットコンロが置かれ、ここで蒸す。厨房で蒸したものを提供するのではなく、蒸し上がる過程も楽しめるという趣向だ。蒸す前のセイロが運ばれ、蓋が開けられた瞬間、15種類の野菜の色鮮やかな盛り付けに、まず歓声が上がる。写真を撮ってSNSにアップする客も少なくない。

だし汁で蒸すのが特徴

スタッフが蒸し上がり加減をチェック、蓋を開けた瞬間2度目の歓声が

蒸し始めると、次は、だし汁がいい仕事をする。加熱されただし汁の香ばしい香りが、食欲をそそるというわけだ。さらに、だし汁が沸騰し始めるとセイロからどんどん湯気が上がる。香りと湯気がダブルで食指を動かし、客の期待感が膨らんでいく。途中、何度かスタッフが蒸し上がり加減をチェックして、いよいよ完成。蓋を開けた瞬間、2度目の歓声が上がる。

オペレーションは切った野菜をセイロに美しく並べるだけ。あとはセイロが客の感動を呼ぶ仕事をしてくれるという秀逸なメニューだ。

●店舗情報
「魚せん中野店」 店舗所在地=東京都中野区中野5-36-6/開業=2006年7月/営業時間=平日午後5時30分~翌午前1時、土・日・祝日午後3時30分~翌午前1時 不定休/席数=約80席
キャプション3 店舗は古民家を改造

◇日食外食レストラン新聞の2017年2月6日号の記事を転載しました。