親子丼といえば、白飯の上につゆで炊いた鶏肉を卵でとじたものがのっている料理……と大半の人は考える。そんな固定観念を一蹴したメニューがある。とじなくても、鶏肉=親と卵=子が一つの丼に盛られていれば、それは堂々の“親子丼”であることを主張したのが、「日本橋ぼんぼり」の「元祖!炭火焼親子丼」だ。

“卵でとじない”親子丼にした理由は

「日本橋ぼんぼり」の看板メニューは地鶏の炭火焼き。仕上げに、炭の上に直に鶏肉の脂身をのせ、脂が燃えて、勢いよく上がった炎で鶏肉をいぶすのが特徴だ。炭火の炎に包まれた鶏肉には炭の香りが付き、独特の味わいを呈する。ただし焼き上った鶏肉は、炭をまとうことで黒っぽくなる。

立ち上がる炎の中で焼くことで炭をまとわせる

この鶏肉で通常の親子丼を作ったら「卵の黄色と混ざるとイヤ~な色になって……」と語るのは武藤一哉料理長。

店の看板である炭火焼きは外せない。親子丼だから卵はマスト。食材が固定されるとなると、変更できるのは調理法だ。そこで“卵でとじる”という親子丼の定石を放棄し、鶏肉と卵を“分けて”盛り付けるという大胆な発想に出た。

このメニューの肝は、卵の火入れ具合にある。最初はいり卵に近い固さまで加熱したが、「おいしいんですが、普通の親子丼のようにつゆの汁気がないので、若干、ぼそぼそした食感になりました」。

汁気がない分を“超ゆるとろ”卵焼きがカバー

そこで、汁気を補う役回りを卵にふった。フライパンに調味済みの溶き卵をジュッと入れる→おたまで混ぜる→ボウルにいったん取り出す、まで約15秒。これを、タレをかけたライスの上にのせると、「固まった卵が残りつつ、固まっていない卵液がライスに染み込み、全体的が卵かけご飯にように食べやすくなります」と武藤料理長。

フライパンに卵液を注いでからは一瞬だ

加熱時間が長くて卵が固まり過ぎると、ライスと卵の一体感が損なわれ、ゆるすぎると卵液がライスの中に流れて上にはほとんど残らなくなる。卵が固まっていないようで、固まっている、卵焼きと呼んでもいいのか躊躇(ちゅうちょ)するほどの“超ゆるとろ”状態がマストだ。


いったんボウルに取って混ぜるとこの状態に

最後のひと口は絶品の卵かけご飯に

さらに「元祖!炭火焼親子丼」は、鶏肉と卵が分かれているがゆえに、鶏肉だけ、ゆるとろ卵焼きだけ、鶏肉×ライス、ゆるとろ卵焼き×ライス、鶏肉×ゆるとろ卵焼き、鶏肉×ゆるとろ卵焼き×ライスと、組み合わせを変えて味を楽しめる。

そうやって食べ進むと、丼の底に甘じょっぱいタレと卵液が絡んだ白飯が残り、最後の一口は絶品の卵かけご飯に。“卵でとじない”親子丼は、期待値をはるかに超えたメニュー力を発揮している。

●店舗情報
「日本橋ぼんぼり」
経営=ダイニングアドバンスディベロップメント
店舗所在地=東京都中央区日本橋蛎殻町1-5-1
開業=2003年11月
席数=1階22席 地下1階28席
営業時間=月~金 11時30分~13時30分、17時30分~22時/土 11時30分~13時30分、17時30分~21時30分。日曜祝日定休
平均客単価=昼900円 夜5000円
1日集客数=昼100~120人 夜40人

◇外食レストラン新聞の2018年1月1日号の記事を転載しました。