雑誌や書籍、テレビで活躍中の料理家・今井亮さん。炒めものをおいしくつくるコツは、なんと「炒めない」ことだそう。そこで今井さんに、炒めずにおいしくつくるコツや夏野菜の炒めもの、さらに暑くて食欲がない時の秘策を教えていただきました。

炒めものの野菜がくったりしてしまう原因は?

おうちで炒めものをつくると、野菜がくったり、味もぼんやり…と残念な結果になってしまうことはありませんか? 一番の原因は、炒めすぎているからです。炒めるほどフライパンの中の温度が下がってしまうので、具材に火が入るのに時間がかかってしまい、結果、野菜からどんどん水分が出てしまうのです。

炒めものをおいしくつくる最大のポイントは、フライパンの温度を下げないこと。最初にフライパンをよく熱して温度を蓄え、ずっと熱い状態で調理することが何よりも大切です。フライパンに油を入れて火にかけたら、最低2分は待ちましょう。すると、しっかり温まります。

具材をフライパンに入れたら、かき混ぜないことも大事。ここで触らずに「焼く」ことで、早く焼き色がつき、素材のうま味がアップします。合わせ調味料は具材の上から直接かけず、フライパンの手前で温めてから、手早く「あえる」こと。フライパンの温度を下げてしまう要素をなくすことで、無駄な水分が出ず、おいしい炒めものができるんです。

また、洗った野菜はザルにあげるだけでなく、ペーパータオルで水気を拭き取る、調味料は最初に混ぜ合わせておくなど、炒める前のひと手間も大事です。

家庭の火力は弱いと思いがちですが、お店の火力が強すぎるだけ(苦笑)。だから鍋を振っても、温度が下がることはないんです。家庭料理と火力はまったく関係ありません。忘れてください(笑)。

料理家・今井亮さん

夏野菜はとくに炒めすぎないこと! オススメはきゅうりの炒めもの

2人分の炒めものをつくる場合、フライパンは24~26cmのサイズが扱いやすいと思います。26cmのフライパンで4人分をつくりたい時は、一度につくらず、2人分を2回に分けた方が、実は手早くおいしく仕上がります。一度につくってしまうと炒めづらいので、結局時間がかかり、味も落ちてしまうのです。

炒めものに適しているのは、テフロンなどのフッ素樹脂加工されたもの。ただし、寿命があるので、こげつきがひどくなったら買い替えましょう。フライパンには軽いものや重いものなどさまざまなタイプがありますが、持ってみてしっくりくるものが一番使いやすいと思います。

トマトやきゅうり、なすなど、みずみずしい夏野菜は、炒めものにも最適です。でも、水分が多い分、水気が出やすいので、炒めすぎてしまうと、せっかくのおいしさが台無しに。夏野菜を炒める時こそ、「焼く」「あえる」という意識を持つことで、水分が出ず、中はジューシーに仕上がります。

夏にぜひつくってもらいたいのが、きゅうりの炒めものです。新刊でも紹介している「豚肉ときゅうりの酢じょうゆ炒め」は、きゅうりをさっと焼いてレアに仕上げた一品。きゅうりの青い香りが引き立ち、爽やかな風味が楽しめます。

夏場はどうしても食欲が落ちてしまいがちですよね。そんな時は、スパイスや酢を活用するのがオススメです。例えば、豚バラとピーマンのオイスター炒めをつくる時にカレー粉を入れたり、合わせ調味料に酢を加えるのもいいでしょう。炒めものに少し酢をプラスすると、さっぱりと仕上がりますし、スパイスの香りで食欲もアップすると思います。

子どもの頃、おやつ代わりでした 井戸水で冷やした夏野菜

私が生まれ育った京都府京丹後市は、日本海の美しい景色と大自然に囲まれた場所。父は家庭農園をしていたので、常に季節の野菜がありました。手作りの野菜は、かたちや大きさもさまざま。1kgもあるきゅうりが取れたこともありましたね(笑)。

夏になると、よく食べていたのが、井戸水で冷やしたきゅうりやトマト。キンキンに冷えた夏野菜がおやつ代わりだったんです。家の敷地には梅やあんずの木もあったので、幼い頃から食材で四季を感じていたと思いますね。いまでも実家からは、季節ごとに収穫した野菜や果物が送られてきます。

中華料理は、基本的に手早くできるので、家庭料理の中でもつくりやすいと思います。「焼く」「あえる」の調理法でつくれば、エビのチリソース炒めや青椒肉絲、かに玉、回鍋肉など、街中華で人気の味も簡単ですし、より素材のおいしさが楽しめます。

中華料理は油を多く使うというイメージがあるかもしれません。確かに、お店では野菜や肉を油通しするなど、たくさん使うのですが、おうちでつくる中華は、他の料理と油の量は変わりません。定番の味も、野菜を加えたりできるので、中華料理こそ、おうちでつくったほうがライトに仕上がり、お店よりカロリーも抑えられると思います。

日常の料理の中で、最もつくる機会が多いのが「炒める」という調理法ではないでしょうか。だからこそ、そのレベルが少しでも上がれば、今後の人生も豊かになるんじゃないかと思うんです。「焼く」「あえる」という調理法を取り入れていただけるとうれしいですね。

今春から、テレビ『キユーピー3分クッキング』の講師を担当させていただいています。男性の講師は50年ぶりみたいです(笑)。今後も、テレビや雑誌などを通して、調理法をちょっと変えるだけで普段つくる料理がおいしくなることを伝えていければと思います。

〈プロフィル〉
いまい・りょう 京都の老舗中華料理店で修行を積み、東京へ。フードコーディネーターの学校を卒業後、料理家などのアシスタントを経て独立。雑誌や書籍、テレビで活躍のほか、料理教室「亮飯店」も主宰。著書に『白飯サラダ』(主婦と生活社)、『そそる!うち中華』(学研プラス)など。

『“炒めない”炒めもの』

『“炒めない”炒めもの』
今井亮著/主婦と生活社 定価1595円(税込)

◇百菜元気新聞の2022年8月1日号の記事を転載しました。