『何で産地のものを産地に住んでいて食べられないの?』

そんな思いからスタートし、本来の産地の在り方を模索している事業所がある。秋田県横手市のお惣菜屋とカフェ “デリカテッセン紅玉”は、地元の食材を愛し、その素晴しさを表現するために、調理という技法を使ってお客様を楽しませてくれることで多くのファンを獲得している人気のお店だ。店名が運命のように、今まさにりんごに引き込まれるように夢に向かって突き進んでいる。その取り組みは、どこか混沌とした6次産業化という一つの波に一石を投じるものとして紹介したい事例である。

調理用として異質なりんご『紅玉』

紅玉という名のりんごは、酸味が強く実も硬めということから、生食用というよりもお菓子などに加工する調理用のりんごとして知られている。もちろん原産地はアメリカだが、明治の初め頃に日本に入り、その頃から栽培が続いている歴史ある品種である。秋田県もまた、明治より産地として手をあげ生産に取り組んでおり、特に横手市では、多くのりんご生産者が今も栽培を続けている。そんなりんごの栽培は、消費する側の嗜好の変化で、栽培品種の変更もせざるを得ない。

各種果実は、そのまま食べて瑞々しいものや糖度の高いものが珍重され、りんごもまたその嗜好に合わせたものに品種改良されてきた。現在はふじを主力の生産品として、多種多様に対応している。調理用として異質なりんご『紅玉』は、それらの生食用の果実とは差別化されつつも、栽培方法や保存方法が他の品種よりも困難であると感じられるようになり、育てやすく高値で取引されやすい品種へと置き換えられて来た。

生産者と共にりんご畑で夢を語る

秋田の紅玉でりんごのお菓子が作れない……

それが、デリカテッセン紅玉が感じた疑問である。りんごの産地なのに、りんごの美味しさを伝える加工品が地元のりんごで出来ないのは不思議。その思いを伝えるうちに、思いを同じくする生産者と出会う。6次産業化という言葉が世で多用されるようになる2010年頃から、農業の現場に立つ生産者は、このままではダメ、何かを手掛けなくてはいけない、そんな世の流れの中で悩み始める。

恐らく、消費者が求める品種の栽培を計画的に進めながら、加工品を自ら手掛けるべきかどうか検討していたのではないだろうか。そんな時に、加工を手掛けてくれる事業所と出会い、共に「加工するためのりんごの生産」と「りんごの特性を生かした加工品の製造と販売」という目標に向かう。

こうして生産者と加工・販売の事業所の連携がスタート。しかし、生産量が少なければ商品として全国展開するための力不足となることは目に見えていた。次に進むのは協力者作り。一人の生産者の事例から、同業の生産者が協力をし始め生産量を上げていく。転機となったのは、何と東日本大震災だったという。秋田県は地震による家屋の倒壊などは少なかった。

しかし、その年の雪害は、果樹農家にとっては甚大。さらに、3月のその日も重い雪を枝にのせたまま、多くのりんごの木がその自然の脅威に倒れることになるのである。生産者さんにとっても少し未来が見え始めたころの、大きな苦難となる。そこで、デリカテッセン紅玉は、協力してくれる生産者にこう言ったという。

「紅の夢」は実も赤いのが特徴

「買い上げますから、新しいりんごの木は紅玉にしましょう。」

後日、この一言から事業主体として予想以上に奔走することになったと言うのだが、そんな苦労もどこか楽しんでいるように聞こえた。

この事業連携をスタートさせた頃、生産者は4名だった調理用りんごプロジェクト。新たな主力品種として“紅の夢”というりんごを加えてパワーアップしている。現在の協力生産者は9名に拡大。買い上げたりんごを、コンポートやドライフルーツなどに加工して販売するために、自ら手掛けるそのりんごたちをクッキングアップルと名付け、並々ならぬ営業力で全国展開する。

今では全国の洋菓子屋を始めとする業者が、この秋田のりんごを待っていてくれるのだ。ちなみに紅の夢は、皮だけでなく実も赤い。コンポートにすると、他に類を見ないほど美しい紅色に染まるのである。味、食感、そしてこの美しい姿を活かせるりんごは、こうして秋田から発信する夢のりんご。まさに『紅の夢』、デリカテッセン“紅玉”の夢でもある。

コンポートにするとピンク色に染まっていく“紅の夢”

【店舗情報】デリカテッセン&カフェテリア 紅玉
秋田県横手市十文字町梨木字沖野66-1
TEL 0182-42-5770

【フードイベント及びセミナー情報】
この「6次産業化の取り組み」ついては、以下のイベント内セミナーで講演する予定です。
「FABEX2017及びデザート・スィーツ&ベーカリー展」2017年4月12日(水)~14日(金)
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